老人ホームは現代の姥捨て山?

どれだけ介護施設が良くなっても、古いイメージのままで、老人ホームに否定的な人がいます。
また、老人ホームスタッフによるトラブルが報道されると、やっぱり家族で世話するのが一番と思う人がいるのも、仕方がないかもしれません。
いくら仕事とはいえ、「赤の他人に大切な家族を、大切に扱ってもらえるのだろうか?」そう思う高齢者や家族も少なくないでしょう。
身の回りの世話や関わりをすべて丸投げするという意味で、老人ホームを現代の姥捨て山と思う人もいます。
老人ホームは現代の姥捨て山なのか?子どもが親を入居させるのは、後ろめたいことなのか?について、家族と入居者の視点から解説します。
老人ホームとはどのようなところ?
特養や介護付き有料老人ホームなど、さまざまな老人ホームがあります。
しかし、ほとんどの人のイメージは全て同じなのです。
ここでは、高齢者が老人ホームに対して、どのように感じているのかを分析してみました。
①できるかぎりお世話になりたくないところ
高齢者の中には、「あんなところは入りたくない」と、明確な理由もなく、入所を嫌がる人も少なくありません。
そこには、「あんなところ」と思うきっかけや思い込みがあるからです。
家族としても、できれば老人ホームに入れたくない、自分たちで介護をしたいと思う人もいるでしょう。
しかし、介護の負担を考えると「いつまでもこのままではいられない」と家族介護に限界を感じる家庭が多いのも事実です。
また、家族としては、老人ホームに入れると世間体が悪いと考えて、入居させるのを躊躇してしまう人も多いです。
実際に使ってみたら、「思っていたのと違った」ということも同じぐらい多いので、イメージではなく体験利用をしてみるなどしてみましょう。
②用事がない、暇がないから見学に行けない
週に数回のデイサービスや訪問介護をしてもらっているから、老人ホームへの入所は考えていない。
また、暇がないから老人ホームの見学に行けない…といった家族も少なくありません。
「必要に迫られていない、介護に対して切迫感がないから必要ない」といってもいいのですが、実際にそういった家庭を介護スタッフが見ると、
「これは老人ホームに入所させたほうがいい」と思うくらい、家庭内の家族の介護だけでは十分ではないことが多いのです。
デイサービスや訪問介護にまかせていれば、ある程度のことはしてくれるので、それで十分に感じるかもしれませんが、支援が十分に足りているのか常に見直していく必要があります。
一番いけないのは、家族の介護に対しての無関心です。
親を大切に思う気持ちはあっても、介護は人まかせで丸投げすることはできません。
本当は、在宅介護では生活できていないのに、お金がないから老人ホームを利用できない。そんな事情の家庭もあります。
老人ホームに入らないのではなく、入れないというケースも含めて、できる範囲での「支援が受けられる環境を整える」という意識が必要なのは、言うまでもありません。
③入所させれば安心
老人ホームは高齢者や家族にとっては、入所すればこれで安心というイメージでしょう。
特に介護疲れを起こしている家族にとっては、負担が減るのですから、老人ホームに入所すると「ホッとする」というのが本音です。
また、介護される高齢者にとっても、身内に「下の世話までしてもらうのは忍びない」という考えになりがちです。
介護スタッフに介護をしてもらうほうが、気持ち的のも割り切って介護を受けられるという方もいるのです。
家族間の介護は、する側は頑張り過ぎてしまうし、される側は遠慮してしまう傾向があるので、緊張した関係になりやすい。
それよりも、いっそ老人ホームに入ることで、距離を取ることができ関係がよくなったというのは、よくある話しです。
介護に必要な設備が整っていること、そして何よりも介護の専門家が24時間常駐しているのですから、在宅介護に比べて遙かに環境が整っているのは間違いないのです。
姥捨て山と思われてしまうのは
老人ホームが姥捨て山と言われてしまうのはどうしてでしょうか。
それには、以前の老人ホームのイメージの問題があります。
昔は、大家族で暮らしていて、子どもの数も多かったため、家族の中に介護が必要な高齢者が居ても、みんなでお世話をして暮らすことができました。
老人ホームに預ける家の方が少なく、今の高齢者世代までは、舅や姑の介護を経験したことのある人の方が多いのです。
しかし、その子の世代になると核家族が進み、親と同居する人は少なくなり、子どもも減りました。
家庭で介護をするのは、現実的に難しいのです。
親の面倒は子どもが見るものだった時代ではなくなったのに、高齢者は、その事実を受け止めることができないのも、「老人ホーム」を受け入れられない理由の1つです。
他にも、老人ホームが姥捨て山と思われる理由がいくつかあります。
①入所したら二度と出られない?
高齢者にとって、老人ホームに入所を勧められるのは「捨てられる」「見捨てられてしまう」「役立たず」「用無し」と思いがちです。
確かに、自宅で暮らすことができないから入るので、入居すると終の住みかになる可能性があります。
そのため、老人ホームは入所したら二度と出られないと思い、住み慣れた我が家を「追い出されてしまう」といった思いが強くなるのです。
もちろん、老人ホームで交流の場を広げよう、といったようにポジティブに考える高齢者もいますが、中には「捨てられる」といったネガティブに考えてしまう高齢者も少なくないのです。
老人ホームは昔からありましたし、いまでも、「家族が高齢者を介護するのがあたりまえ」という考えが根強いのです。
歳をとってくると、どうしても先行きに対して不安が募ります。
さらに、体の衰えなどから、家族の行動についていくことができなくなり、不安や寂しさを感じてしまうこともあります。
そのようなときに、老人ホームへの入所を勧められると、どうしても「捨てられてしまう」「入ったら二度と出ることができない」と考えてしまうのです。
②寝たきりになってしまう
老人ホームに否定的なイメージを持つ人の多くは、入所すると今よりも「状態が悪化する、認知機能の低下が進んでしまう」と思ってしまうことです。
環境が変わることで、状態が悪化する、認知機能の低下が進むといったことも少なくないようです。
しかし、入所したことで、改善に向かったという人もたくさんいます。
老人ホームに入居して状態が悪化してしまう人の傾向としては、何もかも無気力になってしまう人で、逆にその環境を楽しんで介護予防に取り組み、長く元気な状態を保てる人もいるのです。
必ずしも老人ホームに入ったからといって、寝たきりになってしまうということはありません。
気力が落ち込み、何もすることがなくなる、コミュニケーションが取れないといった心の面でのことでしたら、老人ホームの介護スタッフの十分なサポートを得ることができるでしょう。
また、入所しても寂しくないように、家族が面会を密にするなどのフォローも必要です。
③介護度が重い高齢者しかいない
老人ホームのイメージは、寝たきりや介護度が重い高齢者が多いということではないでしょうか。
確かにそのイメージは根強く、「自分はまだ大丈夫なのに」なんであんなところに、と思ってしまいます。
重度の介護状態の人ばかりが入居する老人ホームもありますが、元気な人しか入れないところもあるので、どんなところかを知らないから否定的になってしまうところが少なからずあります。
今は、多様なニーズや介護状態に対応した老人ホームがあるので、一度見学に連れて行って固定観念を変えてみるのも1つの解決法でしょう。
また、年を取ればとるほど体の機能は衰えるのが普通で、できないことが増えていくのですが、それを受け入れたくない気持ちも強いのです。
「自分は人よりまだ若い、できる」と、思っているので、認知機能が低下している人ですら現状を認めようとしません。
介護認定のときに、妙にシャキッとして良く見せようとする高齢者がどれだけ多いことか。
そういった、高齢者特有の気持ちがあるのです。
本人が入りたがらないけど家族は入って欲しい
老人ホームへの入所は、本人と家族とも心構えが必要になります。
そこにはさまざまな気持ちが交錯するものです。
本人が嫌がっている場合でしたら、家族の生活を守るために断腸の思いで入所を勧めるケースもあります。
反対に、高齢者のほうがこれ以上家族に迷惑をかけられないと、自分から進んで入所を求める場合もあります。
老人ホームに入ることは、見捨てることではないこと、大切に思っているからこそ入居することを話したり、
家族も、入居しても変わらず顔を見に行ったり、一緒に過ごす時間を作ることで、お互いの思い違いを変えていくことができるでしょう。
入居する高齢者や家族の意思と毎月の予算
老人ホームに入居するまで在宅介護をした家族にとっては、「どこまで家でみるか?」不安や迷いといった気持ちを抱きながら続けてきたことでしょう。
老人ホームに入居を決めた後ですら、入所にも迷いがあるかもしれません。
しかし、多くの場合、老人ホームへの入所は家族にも高齢者にとってもプラスになります。
しかし、入所するにも先立つものがなければいけません。
また、お金の問題がクリアしても、介護サービスの充実度も考えなくてはいけないのです。
どちらも満足できればいいのですが、無理のない範囲内で利用できるものを選ぶのが良いでしょう。
①毎月の予算から
入居時にいくらの、所持金があるのか?それで入居費用がまかなえるのかを算段しなければいけません。
入居費用は、介護施設によってまちまちです。
入居費用が足りなければ、家族からの援助が期待できるのか?誰がいくら負担するのかも決める必要があります。
要介護3以上であれば、特養などは、入居費用がかかりませんし、介護が必要ないところであればケアハウスやサ高住などは、比較的低料金で利用できるところがあります。
まずは、入居費用の用立てができることが入所の条件となります。
後は、月額費用が年金受給でまかなえるのかです。
足りないのであれば、不足金は預貯金を切り崩していくことでなんとかなるなら、何歳まで支払うことができるか将来設計も考えます。
また、本人の年金や預貯金だけではまかなえないときは、家族がどこまでできるのかを考えなくてはいけません。
介護にはお金がかかります。
子どもたち全員で、誰がどのような支援をしていくのかを入居前に決めておくといいでしょう。
お金の問題はどうしてもナイーブなものなので、ストレートに話題にしにくいものです。
お金のことを隠し事ではなく、オープンに明るく話し合っていくことが大切です。
また、親の介護費用を支援する余裕はないけれど、サポートはするつもりなら、介護休暇という方法もありますが、休暇中はお給料が出ないので、その間の生活をどうするかも考えておく必要があります。
一番まずいのは、無関心です。
全てを老人ホームまかせでは、それが高じて「姥捨て山」と思われてしまわないように、顔を合わせる時間を作ることが大切です。
②介護サービスの充実度から
せっかく、老人ホームに入所しても楽しくなければどうしようもありません。
本人の意思の問題もあるのですが、施設側に問題があることも少なくないのです。
介護サービスというのは、施設によって差が出てくるものです。
本来はあってはいけないことですが、介護スタッフの度量によっても左右されることは少なくありません。
そのためにも、事前の見学や体験入所といったことはとても重要になります。
高齢者によっては、共同生活が苦手で、人の輪の中に入り込めないといったこともあります。
無理矢理コミュニケーションの場を広げるのではなく、ある程度老人ホーム内で自由に過ごせる、一人でも十分に生活をエンジョイできるのかといったことも、老人ホームの重要な選択肢になるでしょう。
後悔しない老人ホームを選ぶ
老人ホームを現代の姥捨て山と思わないためにも、後悔しない老人ホーム選びが求められます。
①老人ホームを探す前にポイントを整理する
老人ホームを探す前に問題点などをクリアしておく必要があります。
・愛情を伝える
まずは、本人を納得させなければいけません。
家族が勝手に老人ホームへの入所手続きを進めることは、高齢者本人にとっては「見捨てられる」という誤解を生みかねません。
それに基づく不安しか生まないので、それを打ち消すには家族の愛情が大切です。
普段から関係がうまくいっていれば問題はないのですが、意思の疎通がしっかりできていなければ、より良い生活をおくるための入所であること、入所後もできるかぎり面会に行くことなどを伝えるようにしましょう。
②老人ホームの種類を決める
老人ホームにもいろいろな種類があります。
どのような老人ホームであっても、高齢者にとって居心地の良い場所でなければいけません。
「安心できて楽しい場所」というのが高齢者にとっては居心地の良い老人ホームと言えるでしょう。
選択肢はたくさんあっても、老人ホームのカラーや費用の問題などもあって、最適な老人ホームを見つけるのは大変です。
その点でも、家族のフォローはとても大切になります。
また、老人ホームが居場所ではなく、自宅もこれまでと変わらず居場所であり続けると思えるような関わり方もおすすめです。
特養など「終の住み処」というイメージがあり、それが、「姥捨て山」と揶揄される要因にもなっています。
終の住み処であることは間違いのない部分もあるのですが、たまには外に連れ出して帰宅させるといったことも必要です。
それについても、高齢者本人にとって、家族のサポートが大きな力となるのです。
③見学に行く・一緒に選ぶ
事前の見学や体験などはとても重要です。
本人がどこでもいいというスタンスのときは、表情や動作などを注意深く観察する必要もあります。
少しでも拒否感が強い場合は、無理強いすることなく他の老人ホームを探すようにしましょう。
費用や要介護度の問題で、多くの老人ホームがあっても選択肢が限られてしまう場合も少なくありません。
無理矢理入所させるのではなく、そこは余裕を持って選択するようにすると、本人にとっても大きな安心感となるでしょう。
パンフレットを一緒に見ること、可能であれば家族共々体験入居することも試してみるといいでしょう。
そうすることで、高齢者も「見捨てられた」という思いを持つことはありません。
現在の老人ホームは、ある一定の基準をクリアしていて、入所者に対して介護スタッフが足りないということは、ほとんどありません。
そのため、昔の一部の老人ホームに見られた暗い雰囲気は、現在の老人ホームは皆無といっていいでしょう。
もちろん、家族もしっかりとそのあたりは見極める必要がありますし、周囲の評判なども自分の耳でしっかりと聞いておくといいでしょう。
※待機期間が長いことで有名な特養でも、空き部屋があるのは介護スタッフが確保できないためです。これは、介護スタッフ一人について入所者数が決められていることから起こる現象です。
まとめ
「姥捨て」という言葉は、日本には古くからそのような風習があったとされてい、老人介護の世界で使われることは一般的ではありません。
また、ますが、おそらくそれ以上に多かったのが「子捨て」です。
口減らしという考え方では、子どもを奉公に出すほうが圧倒的に多かったのです。
むしろ、高齢者は大切にされていたといっていいでしょう。
目上の人を敬うことは古くから、現代まで連綿と受け継がれてきた歴史があります。
昔は親は大事にされ、家族からの介護を受けて自宅で亡くなることが普通でした。
しかし、時代は変わり、家族だけが介護をしていては、家族の人生を捧げるほどの覚悟が必要です。
現在は高齢者を家族だけではなく、社会全体で支える時代になっているのです。
文中でも触れましたが、老人ホームに入っても、頻繁に顔を出したり気を向けるだけで、厄介払いされたと感じることはないでしょう。
現実的に家で家族がみることは難しいけれど、どこに居ても大切に思っていることが伝われば、親も安心して暮らすことができます。
いくつもある家族の形として、老人ホームでの暮らしも検討しましょう。