世帯分離とは?手続きやメリット・デメリットについて

介護費用を節約(軽減)するには、世帯分離をしたほうが有利だという話を聞いたことはないでしょうか。
しかし、場合によっては損をすることもあるので注意が必要です。
世帯分離をして、介護費用が安くなるからくりやデメリットを知った上でやった方がいいでしょう。
介護保険を利用する際に、しばしば耳にすることのある世帯分離について詳しく紹介します。
世帯分離とは?
世帯分離は、同居していながら住民票の世帯を二つに分けることです。
同居している親の介護というのは、大きな負担になります。
別居よりも同居のほうが楽なのでは?という話もありますが、四六時中一緒にいるのは、
ある意味「24時間休みなしで介護している」のと同じで、気が休まる時間がありません。
そういう意味では、訪問介護などの介護サービスは、家族の介護負担を軽減し、自分自身の時間を確保するためにも、是非とも活用したいサービスといっていいでしょう。
介護保険を利用すれば、当然、介護費用が発生します。
介護認定を受け、介護度に応じたケアプラン内でのサービス利用分については、基本は1割負担ですが、収入によっては2割、3割負担となります。
一度介護が始まったら、長期化しますし介護サービスの利用頻度も上がっていきます。
そうなると、介護費用がかさみ家族の経済的な負担も増していくことになるのです。
介護サービスを利用すれば、肉体的・心の負担は軽くなるけれど、介護費用が重くて支払えない。
そんなときに1つの解決策としてあげられるのが、世帯分離です。
要介護者(親)と家族を世帯分離すると、どうしてそれが介護サー-ビス料の軽減につながるのか?
具体例を示して説明します。
・世帯分離の具体例
①世帯分離前(一世帯)
世帯主:父(要介護者)
世帯員:母、本人、本人の配偶者、本人の子ども
②世帯分離後(二世帯)
世帯1
世帯主:父(要介護者)
世帯員:母
世帯2
世帯主:本人
世帯員:配偶者、子ども
同じ住居に居住していますが、同じ住所(住居)に複数の世帯(世帯主)が登録されている形になります。
メリットデメリットは?
世帯分離は、メリットとデメリットがあります。
介護費用が安くなるからという点だけでやってしまうと、逆に損してしまうこともあるので、両方を知っておきましょう。
介護サービス料は、原則として本人1~2割負担というのは世帯分離をしても変わりません。
「介護を利用しても1~2割で済む」という部分だけ切り取ってみれば、安く見えますが、介護費用の支払いは、一度で終わるわけではなく、亡くなるまで続くことになります。
一度介護が始まれば、よくなることはほとんどないので、週に1.2回だったデイサービスが、週に数回、訪問介護も時間がどんどん増えて行って、気づけば家計を圧迫するほど支払うことになってしまうこともあります。
見る見るうちに増えていく介護の支払いを、要介護者本人にしても家族にしても、介護にかかる経済的負担を軽減したいと考えるのが自然です。
介護費用を軽くするには、何を基準に費用が決まっているかを知る必要があります。
それが、世帯全体の収入です。
介護にかかる自己負担額は、要介護者本人の収入によってではなく、世帯全体の収入を合算して介護の自己負担額が決定されるのです。
同じ世帯の中に収入の高い人がいると、その人の収入が世帯収入に合算されてしまうので、介護サービス料の自己負担額が高くなってしまうのです。
この介護サービス料の自己負担額を軽減するには、収入の高い人を世帯から分けるために「世帯分離」するのです。
もう少し詳しく世帯分離についてみてみましょう。
メリットのある世帯分離ですが、デメリットもあるので、このあたりをしっかりと理解して世帯分離をするかどうかを決めなくてはいけません。
世帯分離のメリット
介護に対して世帯分離を行うと以下のメリットがあります。
①介護保険料
②高額介護サービス費
③介護施設入所の食費や居住費
などのの料金が下がるメリットがあります。
介護サービスを利用する場合、その費用の一部を利用者が自己負担します。
このときの負担額は、「高額介護サービス費制度」というもので、上限額が決められています。
そのため、その上限額を超えた支払いを行った場合、申請によって上限額を超えた額の払い戻しが可能となるのです。
そのため、世帯分離をすることで、親(要介護者)の世帯所得が下がると、それに応じて、介護保険料の自己負担額の上限額も下がることになるのです。
そのため、介護サービル料の費用を減らせることになるということです。
具体例
同一世帯で、世帯の誰か一人でも住民税を課税されている場合、介護サービス料の自己負担上限額は44,000円となります。
それが、世帯分離を行って前年の所得金額の合計(年期受給額含む)で、80万円以下であれは、自己負担額の上限額が24,600円となるので、月々19,800円の負担差が出てくるのです。
※80万円以下というのは、年金受給でも老齢基礎年金受給のみの場合がこれにあたります。
※高額介護サービス費の上限額
①生活保護受給世帯:15,000円
②前年の合計所得金額が80万円以下(年金受給含む):24,600円(世帯)、15,000円(個人)
③世帯全員が非課税:24,600円(世帯)
④世帯の誰が一人でも住民税が課税されている:44,000円(世帯)
⑤現役並みの所得者がいる場合:44,000円(世帯)
世帯分離のデメリット
良いことばかりの世帯分離に見えますが、デメリットもあります。
①国民健康保険料の負担が増える
国民健康保険に加入している世帯が世帯分離した場合、それぞれの世帯主が国民健康保険料を支払うことになるので、国民健康保険料のトータルが増えることが多くなります。
※上限を超える世帯が分かれると、それぞれの国民健康保険料が上がります。
特に、74歳以下の場合は注意が必要です。
親を介護しているサラリーマンでしたら、会社の健康保険に親を扶養家族として加入させるほうが得になる場合が多く、扶養家族が多いので、所得税などの負担も軽くなります。
②高額サービス料の世帯合算ができなくなる
同一世帯に2人以上介護が必要な人がいる場合は、高額介護サービス料などの合算ができます。
それによって上限額を超えた分の払い戻しができるのですが、世帯分離をすると、合算ができないので、割高になってしまうのです。
手続きや必要 書類など
世帯分離の手続きや必要な書類などを紹介します。
・世帯分離の概要
住所の異動を伴いません。現在の世帯から、住所の変更をせずに世帯員を分離するために行う届け出です(新しい世帯を設ける)。
・必要な書類
本人確認書類(運転免許証・パスポート・マイナンバーカード等)
国民健康保険被保険者証(国民健康保険加入者の場合)
届け出をする人が本人ではなく代理人の場合は委任状(本人及び世帯員以外)
・手続き場所
市役所・生活課、窓口サービス課等、連絡所や出張所でも可能(住民票等の交付は翌日以降となる)
・手続きの流れ
①住民異動届に必要事項を記入(押印が必要)
②本人確認書類などと一緒に提出
世帯分離の注意点
世帯分離についていくつかの注意点があります。
本当にメリットがあるのか
世帯分離はメリットばかりではありません。
デメリットのところでも触れたように、介護費用は減っても扶養から外れることで所得税が高くなるなど、場合によっては損をすることもあるのです。
また、介護保険制度というのは確立しているものではありません。
現に3年サイクルで内容が大きく変わっています。
これからも、高齢者の増加に合わせて、細かな部分での見直しや場合によっては大改訂がある可能性があります。
あきらかに、世帯分離をしたほうがメリットがある場合以外では、様子を見た方がいい世帯もあるので、安易に勧めるものではありません。
中には、世帯分離をしたほうがお得ということだけに目がいってしまって、結果的には損をしているという人も少なくないからです。
世帯分離で介護費用は安くなるけれど
世帯分離は、介護保険の負担を軽くするためのものではありません。
家計を別計上したいために世帯分離を行うのが主な目的です。
中には介護とは関係なく、節税になるからという理由で世帯分離をする人もいるでしょう。
そして、自治体が推奨しているわけではなく、現場のケアマネや担当者が見るに見かねたご家庭に、それとなくそういう方法もあることを伝え、ご家庭ごとに判断してもらうことがほとんどです。
・国民健康保険証の再発行
国民健康保険の被保険者世帯でしたら、それぞれの国民保険証が発行されます。保険料も変わってくるでしょう。
・収入の高い人を世帯分離する
基本的には、要介護者を世帯分離するということでいいのですが、考え方は、高額介護サービス料の基準値を下げることです。
そのため、介護サービス料を抑えるのは、介護サービスを利用する要介護者と、世帯の中でもっとも収入の高い人を世帯分離することです。
極端な例になりますが、3世帯(両親、長男家族(年収1,000万円)、次男家族(年収600万円))といった世帯構成でしたら、長男家族が世帯分離することで、介護サービス料がよりお得になるのです。
まとめ
夫婦の世帯分離も可能です。
しかし、同居していての世帯分離は常識では無理があること、明らかに生計を別にしているといった証明、さらにはどちらかが死亡した場合の書類申請なども必要になります。
親と子の世帯の分離は容認されやすいのですが、自治体によっては夫婦の世帯分離は認められないということも、頭に入れておいたほうがいいでしょう。
先述していますが、「介護料の負担軽減のため」という理由は、自治体としては受け入れられにくい傾向があるので、別世帯と認められるような理由も考えておきましょう。