「老後資金」夫婦で必要な額はどれぐらい?

老後資金は人によってさまざまです。
「1億円あれば安心」「退職するまでに4,000万円貯めないと」というフレーズを見るいっぽうで、貯蓄ゼロという世帯が20%を超えているというデータもあります。
具体的な金額を提示されると、「そんなお金はない」という人も少なくないでしょう。
ここでは、夫婦で老後資金はこれくらいは必要なのではないか?ということをデータを元に考えてみました。
「老後資金」夫婦で必要な額とは?
老後資金は夫婦でどのくらい必要なのでしょうか?
後ほど詳しい解説をしますが、最低でも3000万円程度は必要と考えておいた方がいいでしょう。
ここで示した最低限必要な老後資金の額は、あくまでも平均的な年金額と支出額の差額を単純計算したケースの場合です。
人によって収入はまちまちで、ライフスタイルによってお金の貯まり方も必要な額も決まってきます。
また、老後の生活のスタートは60歳から?あるいは65歳から?ということでも違ってきます。
自分自身が、あるいは夫婦でいつまで働けるのかも考えて老後の生活設計を考える必要があるのです。
それでも、具体的に貯蓄額で考えると、少しでも多いほうがいいのは間違いありません。
ゆとりを感じるかどうかは、最終的には気持ちの問題とも言えるのですが、記事の後半では、老後資金を増やすためのいくつかの解決法についても触れていきます。
老後資金が必要な期間
老後資金が必要な期間は、一般的には定年退職後から亡くなるまでの期間です。
夫婦でも、稼ぎ頭である夫をメインで考えてみます。
そこで、老後のケースとして、退職した60歳から平均年齢である85歳までの25年間を一区切りと考えられています。
実際に多くの老後資金は、このケースで考えることが多いです。
しかし、年金受給開始年齢が、65歳に原則として引き上げられましたし、女性の平均寿命を考えると90歳まで考えるのが良いでしょう。
現在では、60歳で定年退職しても継続して働く方が多いことを考えると、65歳から90歳までを老後資金が必要な期間と考えてもいいかもしれません。
いずれにしても老後資金を使う期間は、25年から30年と考えていいでしょう。
老後資金を貯蓄・年金・退職金から逆算しよう
老後資金の考え方は、働かなくなってから亡くなるまでの期間に必要なお金に対して、現在の貯蓄と年金収入などで相殺したときにいくら不足するのかを考え、計画的に備えることです。
不足しなければ良いのですが、年金だけで毎月の生活費を賄える世帯は少ないので、多くの高齢者世帯では赤字となると予測されているのです。
まず、老後の収入(貯蓄)を考えてみます。
①公的年金
②退職金
③貯蓄
④給料
⑤その他(資産運用益など)
次に支出を考えてみます。
①生活費
②介護費用
③葬儀費用
④その他(緊急支出)
※生活費や介護費用は、先々での老人ホーム入居なども考慮しなくてはいけません。
老後資金が年金だけでは毎月赤字に
老後資金の定義はさまざまですが、上にあげた収入と支出の部分、そして赤字を考え、さらに介護費用と葬儀費用を算出します。
①介護費用:1人550万円(2人1,100万円)
②葬儀費用:1人200万円(2人400万円)
高齢者夫婦(無職)の実収入は、2017年の家計調査では、209,198円とされています。
このうち公的年金などの社会保障給付は191,880円です。
一方で支出は263,717円ですから、差し引きすると不足分は54,319円となります。
209,198円(収入)-263,717円(支出)= -54,319円(赤字)
この差額分の約5.5万円が毎月の赤字として積み上がっていくのです。
老後の期間を20年間とした場合、生活費の赤字分だけで1,320万円(5.5万円×240ヵ月)にもなってしまいます。
これに介護費用と葬儀費用を加算(1,500万円)すると、2,820万円にもなるのです。
これが25年間でしたら、生活費の赤字部分は1,650万円(5.5万円×300ヵ月)になります。
そうなると、これに介護費用と葬儀費用の1,500万円を加算すると、老後25年間に必要な費用は、3,150万円ということになるのです。
※5.5万円の赤字は、総務省の世帯属性別の家計収支(二人以上の世帯)のデータを元に計算しています。
赤字はあくまでも、一般的な平均値です。
赤字を出さずに、平均的収入の範囲内で生活している人も少なくありません。
赤字を発生させている世帯は、それをまかなえる貯蓄があるということになり、その額の平均値が25年では1,320万円、30年では1,650万円ということになるのです。
赤字を出さずに生活をしている人でも、その上に介護費用や葬儀費用の捻出をしなくてはいけないので、老後を迎える場合はある程度の貯蓄というのは必要になるのは間違いありません。
老後資金の問題点は、貯蓄率の低下
金融資産を保有しない、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」が増加傾向にあるようです。
2016年の時点で、全世帯を対象にした調査では、貯蓄ゼロの世帯が30%を超えています。
世代間格差もありますし、失われた20年の間は、賃金の上昇がなく必然的に貯蓄できない世帯が増えていったのは間違いないでしょう。
特に、60歳代でこれから老後を迎える高齢者は、失われた20年を現役世代の一番お金のかかるときに迎えています。
そのため、貯蓄が目減りあるいはできなかったという世代なのです。
60歳代の貯蓄傾向を見ると、平均値、中央値ともに低下傾向になっています。
金融資産の規模の区分に関係なく、全面的に減少しているのです。
60歳代:平均貯蓄 1,411万円、中央値601万円
1,400万円あれば、20年間、月々の生活費の赤字補填はできそうですが、そこから介護費用を捻出するとなると、赤字幅を少しでも減少させるといった節制した生活が要求されます。
老後夫婦の生活費は、何にどれぐらいお金が必要?
老後生活でどのようなことにお金がかかるのかは、現役時代の場合と中身について変わることはありません。
以下に、一般的な消費支出の費目とそれにかかる費用を示します。
(60ー69歳代) 65歳以上 70歳以上
①食費 :76,608円 70,058円 68,065円
②住居費 :16,459円 14,853円 14,115円
③水道・光熱費 :22,693円 21,635円 21,191円
④家事用品 :11,991円 10,273円 9,570円
⑤衣料費 : 9,999円 7,465円 6,850円
⑥その他 :14,603円 14,995円 14,850円
⑦交通・通信費 :43,418円 28,534円 23,998円
⑧教育費 : 1,352円 458円 360円
⑨教養娯楽費 :29,366円 24,541円 23,162円
⑩その他消費支出 :64,565円 54,898円 52,466円
⑪交際費 :25,541円 25,315円 25,264円
⑫仕送り金 : 3,679円 1,784円 1,447円
支出合計 290,084円 247,701円 234,628円
基礎的支出 182,352円 172,308円 168,070円
選択的支出 107,732円 75,392円 66,558円
老後の生活では、夫婦二人が月々生活するのに30万円近いお金がかかることになるのです。(65歳以上、70歳以上では支出は減少傾向になります)
生活費全般の支出の費目なので、ここには年に数回の旅行費用などは入っていません。
積み立て型の生命保険の満期の払い戻しなど、突発的な収入や旅行などの余暇の費用によって、支出も変わるでしょう。
老後の支出で多いと言われている介護費についても、備える必要があります。
介護サービスは、65歳以上から利用できるため、60歳代の場合では、それほど費用がかかりません、
また、住居費についての16,000円という数字もあくまでも平均的な金額で、持ち家や賃貸では大きく変わってくるでしょう
もちろん、住宅ローンが残っている人はこの費目の金額が跳ね上がってきます。
さらに、年に一度の支払いとなる固定資産税などの税金も考慮しておかなくてはいけません。
いずれにしても、60歳代の前半は介護サービスは特定の条件を満たした人のみしか利用できません。
そのため、費用については、かなりの幅があると考えていいでしょう。
老後の支出額については、総務省の世帯属性別の家計収支を参考に計算しました。
ここでの数字は、あくまでもデータとしての支出の多い世帯から少ない世帯までのすべての平均額のため、
ご家庭によっては、固定費を減らすなどで減らすことが可能です。
支出が減れば、それだけ毎月の生活費に余裕ができるので、早い段階から支出の見直しもしておいた方がいいでしょう。
※選択的支出:食費や水道光熱費といった必然的支出(基礎的支出)に対して、旅行・教養・娯楽・外食といった選択的サービス、さらには家電・自家用車・衣料品などにかかる費用のこと
加齢とともに選択的支出は減少する傾向にあります。極端に考えると、基礎的支出のみであれば赤字になることはなく公的年金・その他の収入で月々の生活ができるということになります。
老後に貯めておきたい貯金額は?
ここまでで、「老後資金」を夫婦で必要な額を、老後25年で考えると3,150万円は必要そうだという計算をしました。
これは、収入と支出を差し引いた赤字の補填額と、介護費用や葬儀費用を加えて計算したものです。
生活するのに最低限必要な、食費や光熱費とは違う、旅行や娯楽に使う支出を減らすことで、老後の生活費にかかる費用を低く抑えることができます。
そうすれば、老後資金として貯めておく金額も減らすことができます。
しかし、趣味や娯楽に全くお金を使えない生活というのは、ストレスが貯まるものです。
使うか使わないかは別として、余暇を楽しむために使えるお金があるという気持ちの余裕は、豊かな老後につながります。
夫婦のライフスタイルによって、必要な額はまちまちですが、それぞれのご家庭の状況によって、使うところは使い、節約できるところは節約するようにして、現役のうちに貯蓄ができるのが理想でしょう。
収入や支出の面を考えてみましたが、これらは、在宅(在宅介護)での生活を前提にしています。
夫婦での老人ホーム入居となると、もう少し毎月の生活費が必要になってきます。
その場合、どのくらいの費用が必要なのかも考えてみなくてはいけません。
老人ホームに入った場合の費用はいくら必要?
老後生活を考えると、先々では介護施設への入居も考えなくてはいけないときがきます。
夫婦でずっと一緒に居たい。というのは理想ですが、介護が始まると介護が必要な程度が進むことはあっても、軽くなることはほとんどありません。
在宅介護の経験から、最後まで自宅で介護をするには、家族がかなりの時間と体力を捧げる覚悟が必要だと感じました。
できれば、元気なうちから介護について話し合っておくのが理想ですが、夫婦で入居できる介護施設もあるので、そういったホームであれば、真に最後まで一緒に過ごすことができます。
夫婦で入居できる介護施設は、主に2つ。
・住宅型有料老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
この二つについては、要介護認定がなくても入居できる施設です。
一般的には、「介護施設は介護が必要になってから」と思われていますが、身の回りのことができるうちから入ることができるのが、この2つの施設の特徴です。
また、どちらかが介護が必要になっても、改めて老人ホームに移ることなく、同じ施設で夫婦で一緒に暮らしながら介護を受けることができるのです。
高齢者が生活しやすいように作られているので、バリアフリーはもちろんのこと、いつも見守ってくれる第三者がいることで、突然のトラブルなどのときも安心だと好評です。
※ここで取り上げた2種類の施設は、介護が必要になったらほとんど受けられる体制が整っているところとして紹介しました。
施設によっては、介護が必要になってもサービスが受けられない、特殊な介護施設もあります。
そういった施設は、終の住み処としては向いていません。介護が必要になっても住み続けられるかどうかは、資料などで必ず確認しましょう。
介護施設にかかる費用について
入居費用 月額費用
住宅型有料老人ホーム 0円~数千万円 12万円~30万円 介護サービス料は別途
サ高住 数十万円 5万円~25万円 食費・光熱費・介護サービス料は別途
以上のようにかなりの幅があります。
特に、住宅型有料老人ホームは入居費用にかなりのばらつきがあります。
入居時に必要な金額は、数十万円~数百万円からと低く抑えられているところもあります。
有料老人ホームの方が、費用が高くなりますが、身体介助など将来的に不安のある人は、住宅型有料老人ホームのほうがいいでしょう。
介護型有料老人ホームへの移行がスムーズに行われ、さらには終の住み処として利用することもできるからです。
サ高住は、「できるだけ、夫婦で生活していく」といった人向けです。
将来的な退去も視野に入れた生活設計が望まれます。
ある程度の介護サービスも利用できて、生活もしやすい、プライバシーもあるという点でサ高住は優れています。
※有料老人ホームは、食費・光熱費が月額費用に込められています。一方で、サ高住は食費・光熱費は入っていないので、その辺りの費用も考える必要があります。
サ高住の場合は、かなりの自由度があります。
自立している人でも入居できるので、車の保有やそこから通勤なども可能です。
あくまでも、高齢者に住みやすい施設の提供ということがサ高住の理念ですから、高齢者の住みやすさ、働きやすさを考えるとかなり大きな選択肢といってもいいでしょう。
夫婦二人の場合
老人ホームの月額費用は、必ずしも月額費用が倍になるということはありません。
同部屋が原則ですから、食費が倍さらにプラスα程度に考えていいしょう。
年金収入と貯金などを考え、有料老人ホームでも二人合計で30万円程度であれば可能なラインです。
入居資金がかかることになりますが、持ち家があるのでしたら、家族の同意を得て処分して入居費用を工面するのも一つの方法ですし、リバースモーゲージを利用するのもいいでしょう。
※リバースモーゲージ
持ち家を担保にして、融資を受けることができる仕組みです。年金型にして月々受給するような形にもできます。死亡後は自動的に自宅を売却することになるので、持ち家の処分を考える必要はありません。家族の同意が必要ですが、月々の費用が年金受給では足りないというときに、大きな助けになるのがこのシステムです。
豊かな老後生活を送るために
年金受給だけでは、豊かな老後生活というわけにはいかない時代です。
お金はあればあった方が安心ですが、必要でないところに使ってしまっていたり、本当はもう費用を抑えられないか?減らす工夫も必要です。
大切なのは、収入や使えるお金に対しての生活費の差額です。
食費や水道など生きていくのに最低限必要な支出はありますが、夫婦二人では、2人分の年金で生活ができるので、まかなえるというご家庭は多いでしょう。
しかし、生活をするには楽しむための時間も必要です。
お金がなくても楽しく生活する方法はいくらでもあるのですが、やはり余裕資金があると、それだけでも安心して余生を送ることができるのです。
老後資金はどのように用意したらいい?
老後資金を貯金で考えると次のような項目が考えられます。
・退職金
・家族からの援助
・給与
いつまで働けるかにもよりますが、60代でも働いている人はたくさんいるので、70歳までは働くという人も増えてきています。
そして、繰り返しになりますが、現役世代のうちに少しでも貯金をしておくことです。
貯金無し世帯が増えているということですが、全体の数値が30%ということで、これから老後を迎える世代であれば、貯蓄率も上がっているでしょう。
給与がなくなった後は、退職金や貯蓄の切り崩しながらの生活になるので、どれだけ計画的に使っていくかが大切になります。
まとめ
夫婦二人での老後資金の目安は3,000万円と言われています。
あくまでも、単純な老後に使う費用と年数の計算によるものなので、もう少しあった方がいいですが、1つの目安として3,000万円を目標にするといいでしょう。
金額を考えると難しいと感じる人も少なくない数字です。
しかし、年金のみで生活できている人は少数派であることを考えると、目指すところ、3,000万円というのが、一般的には妥当な金額になります。
介護サービス費用も、夫婦二人の平均も1,000万円かかります。
人生80年時代から、これからは90年の時代になります。
そうなると、老後資金はまだまだ増やさなくてはいけないでしょう。
一説には3,000万円では足りず、5,000万円は必要という考えもあります。
ゆとりのある老後生活を送るためには、潤沢な老後資金が必要ですから、そのためにも少しでも長く働く、また、年金受給を繰り下げるといった方法もあります。
年金は受けとらずにできるだけ働いて、繰り下げ受給をすることで、受給率を最高で142%まで増やすことができるのです。
老後資金が少なくて不安を感じる人は、できるだけ働く、年金の繰り下げ受給を行う、自宅も財産とみなして足しにする、などの対処も考えたほうがいいでしょう。