老後の暮らしにかかる費用とは?

進む高齢化社会…誰もが必ず通る道です。自分自身の老後の生活が気になる人は少なくないでしょう。
誰もが望むのは安定した老後の生活です。そのために必要なものが老後の資金です。
老後の生活にお金はいったいいくら必要なのでしょうか。これはなかなか難しい問題で、現在の高齢者あるいはこれからの高齢者が100歳まで生きる確率はどんどん上がっているのが現状です。
60歳から数えても40年と考えれば人生の半分近くが高齢期ということになります。
60歳を超えてからが第2の人生の始まりと考えるとなおさら、老後の生活資金というものが気になってくるのです。
ここでは、老後の暮らしにはいくら必要なのか、年金での生活は可能なのか、あらゆる角度で老後の生活を紹介していきます。
●老後の暮らしに必要なお金はどれくらい?
60歳を超えた無職世帯(夫婦二人暮らし)の平均的な生活費データがあります。「家計調査年報」平成28年度のデータですからほぼ現在の実態に近いものといえます。内訳を以下に示します。
・食費 68,193円
・住居費 14,346円
・水道光熱費 20,427円
・家具・家事用品 9,290円
・被服等 6,737円
・その他 14,646円
・交通・通信費 26,505円
・教育・教養娯楽費 25,712円
・こづかい 6,225円
・交際費 25,243円
・その他雑費 22,280円
・合計 239,604円
合計で24万円近くのお金が必要ということになります。
内訳を見ても、特に突出した数字があるわけでもなく、どちらかというとつつましい生活に見えます。人によってはこの部分は削ることができる、これにはもっとお金が必要…という場合もあるでしょう。
この家計データではこづかいが少なくなっていますが、教養娯楽費に充てていることで、分類方法は人によってもさまざまです。
また、都会と地方ではライフスタイルが違うことも考慮しておいたほうがいいでしょう。
・都会と地方のライフスタイルの違い
交通手段として、移動は地方では車がメインとなり、都会では電車やバスがメインとなるでしょう。
維持費は交通費を考えると車を持つほうがお金がかかることが多く、交通費だけを考えると地方のほうが割高となります。いっぽうで、都会は物価が高い傾向にあり、住居費の平均も地方よりは高めとなります。
住居費でいうと、60歳定年で無職になった時点で、住宅ローンが残っている、完済しているといったことでもその後の生活に大きく影響が出てくるのは間違いありません。
・住宅ローンの有無と賃貸住宅
現役時代にいかに資金繰りよく住宅ローンを返済しているか、60歳の時点で住宅ローンを完済していることが望ましいのですが、退職金で住宅ローンを繰り上げ返済するといった方法もあります。
しかし、手持ち資金をできるだけ多く残しておきたいという気持ちもあるでしょう。
住宅ローンの有無や、先々では老人ホームへの入所も視野に入れるようになると、ライフスタイル自体も変わってきます。また、賃貸住宅で暮らしている人も少なくありません。
公営住宅でしたら、家賃も少なくて済むのですが、賃貸住宅にいつまで住むことができるのかといった不安も出てきます。
・夫婦二人の100歳までの生活費を考える
人によって、ライフスタイルはさまざまです。
定年後、退職金で住宅ローンを完済するのか、退職金を残しておくのか…多くの家庭では、夫婦二人の年金だけでは生活できないという調査結果となっています。
そうなると、手持ち資金をできるだけ多くして、それを切り崩していく生活になるでしょう。
60歳の夫婦二人で月々の生活費は、上述した事例のように少なくとも20万円以上は必要となります。
事例のように24万円としたら、年間で288万円となります。
年間300万円の生活費としたら、10年で3千万円ということになります。100歳までいきるとしたら、ここからさらに4倍ですから1億2千万円のお金が必要ということになるのです。
・年金受給のスタートが選べる
100歳までの生活費を考えると、途方もない金額に見えてきます。
それでは肝心の年金収入を考えてみます。
現在の年金受給の開始年齢は原則として65歳からですが、繰り上げ請求を行うことで60歳から年金を受給することができます。
具体的には60歳から65歳までの間は受給する時期を選ぶことができるようになっているのです。
それならば、60歳から受給したいところですが、100歳まで生きることを考えると選択肢としては、65歳からの受給のほうが年金受給の累計額ではお得になります。
もっとも生涯年金ですから、現在の高齢者が100歳まで生きるというのは、確率の問題であって誰もが100歳まで生きるというわけではありません。
60歳からの年金受給となると、基本金額の7割しかもらえません。
それがずっと変更することなく一生涯続くことになります。
人生何があるかわかりませんが、70代半ばまで生きることを考えると、その時点で年金の受給累計額は60歳受給と65歳受給で同額になります。
そうなると、それ以降は65歳受給のほうが年金の累計受給額は多くなっていくのです。
・月々24万円の生活費を目標にする
60歳で無職の人は少なく、何らかの仕事についていることが多いのが現状です。
そのため、なんとか65歳までの生活費を稼ぐようにすれば、夫婦二人で月々24万円のお金を確保するのはそう難しいことではないでしょう。
月々24万円必要だとしても65歳から年金受給が始まります。一人ではなく夫婦二人ですから、2馬力となります。
夫婦二人で24万円に足りなければ、そこから貯金を切り崩していく方法と、年金収入に合った生活をするようにする2択しかありません。
つつましい生活になってしまいますが、まずは、そこにあるお金だけで過ごすというライフスタイルを構築することが大切です。
老後の年金収入はいくら?
誰もが気になるのは年金の収入です。老後の暮らしを考えるうえで非常に重要なことですが、現在の年金制度では65歳からの受給と60歳からの繰り上げ受給の2通りに分かれています。
いずれはは65歳受給に一本化されることになるかもしれません。
また、60歳からの受給の場合は、65歳からの年金受給をする場合の70%しかもらえないことにも注意が必要です。
毎年のように、老齢基礎年金部分の金額は変更されます(だんだん少なくなっていきます)そのため、年金でも「逃げ切り世代」という言葉を聞いたことのある人もいることでしょう。
年金の受給金額は一度決まってしまえばそれが一生涯続きます。
毎年受給金額の見直しが行われ、少なくなることはあっても増えることはありません。
そうなると、老後はどれくらいの蓄えが必要か、といったことを常に考えなくてはいけないのです。
老後の収入となると年金以外に他はありません。
ある一部の人(タレントなど)は生涯働いていますが、それは特別な例といっていいでしょう。
ほとんどの人は年金収入でのみ生活しているので、年金がいつの時代であっても収入のメインであり、年金収入と現役世代での蓄えが老後の生活を支えているといって間違いありません。
・65歳からの受給を考えると…
公的年金の加入者は、原則として65歳になると年金の受給が始まります。
標準的な世帯(会社員で厚生年金に加入していた人と専業主婦(配偶者控除を受けていた人))で月額22万円の年金受給となります。
これは夫婦二人の合算です。当然ですが、どちらも65歳を超えていなければいけません。
夫のみ65歳を超えている場合は、年金受給額は少なくなります。
ただし、この場合は妻が働いて家計を支えるといったことも考えるべきでしょう。
・年金受給22万円の考察と個人年金保険
夫婦二人で22万円というのは少ないようにも感じます。
それでも、先述した平均的な生活費が24万円だとすると、なんとかなりそうな金額と考えることもできるでしょう。
そこにあるお金で生活することを考えると、多すぎると感じる費目の金額を抑えることで、22万円の年金受給で生活するようにしなくてはいけません。
22万円の受給が少ないと考える人もいますが、2017年度の大卒初任給の平均が20.6万円です。
何もしなくても大卒初任給よりも多い収入があるということも認識しておくべきでしょう。
また、将来を見据えて、民間の個人年金保険に加入しておくと、老後にプラスαの年金を受給することができます。
現役世代の月々の自己負担額が増えますが、老後を見据えた場合に、民間の個人年金保険の加入は大きな選択肢として注目されます。
・厚生年金と国民年金のみの受給額の比較
また、夫婦がともに65歳から100歳まで生きると仮定すると、年金受給額の累計は、現時点で9,282万円になります。
これを考えると9,000万円以上の年金受給があるということになります。
ただし、厚生年金に加入していた会社員と配偶者の場合の年金受給額です。
これが夫婦二人とも厚生年金保険料を納めていたら、もっと多い受給金額となりますし、反対に夫婦二人とも自営業などで、国民年金のみとなると、累計受給額はかなり下がってしまいます。
平成28年末時点での国民年金の受給額は、平均で5万5千円です。
夫婦で65歳以上であれば、年金受給の平均は11万円ということになります。
こうなると、平均的な月額の生活費の24万円の半分以下の受給ということになります。
国民年金のみの受給者にとっては、それまでの蓄えが必要となるのですが、自営業の人が多く商売をしていると生涯にわたって収入があるということになるので、稼ぎの部分で必要な生活費をまかなうようにしなくてはいけません。
●老後の暮らしは年金だけの生活は可能?
上述した、会社員とその専業主婦の平均的な生活費を考えて、少しの赤字を補填できるようでしたら、年金生活は十分に可能です。
妻も厚生年金受給者であれば、さらに年金受給金額は増えるので、ゆとりのある生活をすることができるでしょう。
ただし、国民年金のみの受給者となると、年金受給だけでは夫婦二人でも11万円ですから、かなり厳しいといわざるをえません。
国民年金のみの人は自営業者などがほとんどですから、ある程度の蓄えや65歳以降でも、仕事をして稼ぐ術を考えなくてはいけません。
自営業者の人でしたら、国民年金だけでは心許ないので国民年金基金などに加入して少しでも年金の受給額を増やすようにしておくとよいでしょう。
その分現役時代での月々の年金保険料の負担が重くなることには注意が必要です。
●介護が必要となった場合にかかる費用は?
老後の年金のみの生活となると、気になるのは介護が必要になった場合です。
介護保険料を払っているから、介護は無料で受けられるということはありません。
健康保険と同じで介護も原則として1割負担となります。
65歳になると第1号被保険者となるのですが、介護保険料の納付先が直接市区町村になること、そして、要介護度認定を受けることで、一般的に言われる「介護サービス」を受けることができるようになります。
(65歳までは特定の条件を満たした人のみ介護サービスを受けることができます)
・介護度が上がると自己負担も増加
ここでは詳しく説明しませんが、介護を受けるにも介護認定をしてもらわなければいけません。
介護認定も7つの区分があり、軽い方から、要支援1,2、要介護1~5の区分となっています。寝たきりで全てにおいて介護が必要となると要介護度5となるのですが、段階を経て要支援から要介護、というように上がっていくのが一般的です。
介護度が進むほど、手厚い介護サービスを受けることができるのですが、その分自己負担も上がっていくのです。
・在宅介護の場合
在宅介護には、デイサービスへの通所や訪問介護などがあります。
介護にかかる費用も「介護サービス利用料」と、生活の利便性を向上させるためのリフォーム料など、「介護サービス以外の費用」に分かれます。
実際に在宅介護にかかる費用は2016年のデータになりますが、平均として月々5万円ということです。
内訳は、介護サービス利用料で1万6千円、介護サービス以外の費用で3万4千円です。
あくまでも平均値ですから、元気な人では、介護料がまったくかからないという人もいるでしょう。
反対に月々10万円以上の介護料がかかっているという人もいると思います。
いずれにしても、これは自己負担が1割の場合のですから、実際の介護料はこの10倍と言うことになるので、かなり大きな数字といえます。
現在では、前年の収入などによって、介護サービス料の自己負担も2割、3割という人もいます。自己負担額はこれから減ることはなく増えていくことがおおいに予想されているのです。
介護期間の平均は5年から10年という数字が出ています。
5年でも自己負担額は300万円という数字になります。これが夫婦二人ということになれば、倍の600万円です。
10年の介護期間となるとさらに倍の1,200万円ということで、かなりの負担額となります。
もっとも、収入によっては介護サービス料の自己負担割合は2割、3割になります。
また、要介護認定も厳しくなっているので、重たい要介護度になかなかしてくれないという不満も少なくないのが現状なのです。
老後の暮らし、老人ホームにかかる費用は?
老人ホームに入所するにも費用がかかります。老人ホームには大きく3通りがあります。
・介護付き
・住宅型
・健康型
以上の3つです。
それぞれ、入居一時金も必要で、数十万円から数百万円と幅があります。
これは先立つものが必要ですから、手持ち資金と相談しながら決めるしかありません。
昨今では、入居一時金をゼロ円に設定している有料老人ホームも増えているようです。
月額料金は家賃や食費、光熱費なども含めて20万円から25万円が必要とされています。
これは一人分ですから、夫婦で入所しようと思うと倍の月額料金が必要となります。
仮に入居一時金が100万円、月額料金が20万円とすると、10年間で2,500万円の費用がかかることになります。
要介護度認定が3以上の人については、特別養護老人ホームに入所できます。
人気の施設で入居待ちとなっているのですが、上にあげた有料老人ホームよりも安価になっていて、入居一時金は必要なく、月額の費用も平均で10万円程度となっているのも人気となっています。
在宅介護か老人ホームかということになると、在宅介護のほうがかかる費用が少なくて済みます。
しかし、平均寿命が男性で81歳、女性で88歳となると、健康寿命がそれぞれマイナス10歳と考えると、介護が必要な期間は10年ということになります。
その10年という余生をどのように過ごすかは、本人次第ですが、損得勘定ではなく、本人にとってどちらが幸せに余生を送ることができるのかを考える必要があります。
老後も快適に暮らすため働いた方が良い?
多くの人は、老後の生活に不安を持っているといっていいでしょう。
そして、平均寿命が伸びていても、健康寿命の伸びはほとんどない状況では、介護が必要な期間が今後も伸びていくということです。
それを考えると、元気な時期にいくらでもお金を稼いでおくほうが良いのは間違いありません。
体が動くうちは働くという気持ちが大切ということです。
多くは稼ぐことはできないかもしれませんが、働くということは体を動かす、頭を動かすということで、認知機能低下の防止にも効果があるのは間違いありません。
何よりも人との関わりの中で生活することが、体を健やかに保つにはとても大切なことです。
体を大切にしながらできるだけ働く、少なくとも70歳までは、働いて稼ぐという気持ちが大切です。
●まとめ
平均寿命が延びているのは周知の事実ですが、問題は健康寿命です。
これについては大きく変化がなく、これからも介護を必要とする年数が増える傾向にあるのは間違いありません。
介護サービスも事業ですから、できるだけ支出を減らすような施策で、自己負担額を増やす、要介護認定を厳しくするといった施策は容易に想像ができます。
これからは、いかに健康寿命を延ばすか、それまではしっかりと働いて少しでもお金を貯めておくということに注力していく必要がありそうです。