介護離職をするべき?

世の中では、介護に関するさまざまな問題について議論されていますが、その中のひとつに「介護離職」があげられます。
介護離職とは、仕事をしながら親や家族の介護に携わる人が、介護をきっかけに仕事をやめてしまうこと。
生活するお金を稼ぐために仕事は欠かせませんが、休む間もなく介護に追われてしまい仕事どころではなくなってしまうケースもあります。
しかし、仕事を辞めたことで、新たな問題が起こることになることが問題になっているのです。
介護で疲れてている状態で決めたことは、正しい判断でないこともあることもあります。
今回は介護離職のメリットやデメリット、介護離職をしないで介護問題を解決する策を紹介していきます。
介護離職はすべきか?
昔と比べれば、多くの日本人が低収入に悩まされるようになり、結婚した夫婦も共働きが当たり前になりました。
また、少子高齢化も進んだことで、子供にのしかかる親の介護の負担は増大しています。
多くの人が、仕事と介護を両立せざるを得ない状況になっているのです。
そんな状況の中、日本では毎年10万人近い人(男性で3人に1人、女性で5人に1人の割合)が、介護離職を選択しています。
昔であれば介護離職は、パートタイマーで働いている方に多かったのですが、2010年頃から正社員で介護離職をする方も増加しています。
人それぞれ状況が違うので一概には言えませんが、基本的に介護離職はおすすめしません。
それは、仕事を辞めてしまうことで、別の問題が起こってしまうからです。
介護離職によるメリット・デメリット
介護離職がおすすめできないのは、メリットに対してデメリットが大きすぎるからです。
介護離職によるメリットとデメリットを整理しましょう。
介護離職のメリットとデメリット
介護離職のメリットとしては、次のような点があげられます。
- ・介護に専念できる
- ・肉体的、精神的な負担が軽減できる
- ・介護費用を軽減できる
- ・親の希望を叶え、子供の義務感を満たせられる
介護離職を考えている方が圧倒的に足りないと感じているのが、自分で親を介護するための「時間」です。
離職をすることで、毎日の仕事の時間を介護に充てることができますし、介護費用を軽減できます。
介護離職によって「できれば子供に介護をしてほしい。」という親の希望を叶えられますし、子供の親の介護に対する義務感も満たされるでしょう。
介護離職のデメリット
上で紹介したメリットを上回るほどの介護離職のデメリットがこちらです。
- ・収入の途絶え
- ・介護が終わってからの再就職の難しさ
- ・介護に専念するからこその負担
当然介護離職をすれば、今まで当たり前のようにもらっていた給料がゼロになります。
自分で介護をすれば介護費用を節約できますが、そのかわりに自分の給料がゼロになっては本末転倒です。
また、「介護が終わったら再就職をしよう。」と考える方は多いですが、介護によってブランクが空いた40~50代の方の再就職が難しくなるのは容易に想像できます。
介護と仕事を両立するのも確かに大変ですが、離職をして介護に専念する場合でも違った負担がのしかかります。
介護離職をした人の中には、「仕事と介護を両立させていたほうが楽だった。」「介護離職をしてから、自分が仕事をすることで介護のストレスを発散できていたことに気づいた。」と口にする方も少なくありません。
介護離職を避けるポイントは、自分で介護をしないこと!
介護離職を避けるということは、仕事と介護を両立させるということです。仕事と介護を両立させるための具体的な方法を紹介しましょう。
ポイントは、自分でしない介護体制作り!
介護離職を避けるためにするべきなのは、自分が介護をしなくとも親が生活を送られる体制を作ることです。
簡単に言えば、「介護サービスを積極的に利用しましょう。」ということです。
例えば、もともとパート職で日中に短時間だけ勤務しているという場合であれば、デイサービスや訪問介護を利用することで、親が自宅で一人でいる時間を極力減らせます。
毎月、数日の出張があるといった場合は、短期間だけ親が施設に宿泊できるショートステイというサービスを利用することで、子供が家にいない時間があっても安心できます。
1~3割の自己負担で利用できる介護保険サービスは費用も安く便利ですが、利用するには一定度合いの要支援・要介護認定を受けている必要があり、希望をしても利用できないケースがあります。
そんなときは、自治体や民間の事業所が提供している介護保険外サービスを利用する手もあります。
特に、民間の介護保険外サービスだと費用はかさみますが、「親がデイサービスから帰ってきて、仕事をしている自分が家に帰るまでの2時間だけ介護が必要だ。」といったような場合に、ピンポイントで利用することもできます。
ただし、介護の知識もない人が、簡単に「自分では介護をしない体制」を作れるわけがありませんよね。
そこで強い味方になるのが、ケアマネジャーです。すでに親が要介護認定を受けているなら、ケアマネジャーとも関わりがあるはずです。
介護離職を避けるなら、まずはケアマネジャーに今の状況をしっかりと説明し、「仕事と親の介護を両立させたい」と訴えましょう。ケアマネジャーは希望に沿ったケアプランを作成してくれるはずです。
中には「ケアマネジャーと馬が合わないから、頼みにくい。」「ケアマネジャーに相談しても、全然希望を聞いてくれない。」と悩んでいる方もいるかもしれません。
そういったときは、遠慮せずに担当ケアマネジャーを変更して、馬が合うケアマネジャーを見つけましょう。
介護休業制度の利用で、介護体制を作る!
自分でしない介護体制を作るとはいっても、そのためにはさまざまな手続きが必要ですし、体制を整えきるまでの間も親は介護を必要とします。
中には仕事をしながら、スキマ時間を縫ってケアマネジャーと連絡を取り合って体制を作る方もいます。
しかし、離職をせずにある程度まとまった休日がとれれば、じっくりと時間をかけて介護が必要な親をフォローしながら、ケアマネジャーとも相談して万全の介護体制を作れるでしょう。
そこで役立つのが「介護休業制度」です。
介護休業制度とは、対象となる介護が必要な家族1人につき通算93日を上限として、最大3回に分けて休日を取得できる制度です。
通算93日ですから、最初に1カ月ほどまとまった休日を取得して、介護体制を整えて会社へ復帰。
その後、実際に仕事と介護を両立させながら今の体制の課題点を見つけ、ある程度経ったらまたまとまった休日を取得して、介護体制を構築して…といった使い方もできます。
日雇い労働者や雇用されてから1年未満の方は利用できないなど制限はありますが、条件に当てはまる方は制度を利用しない手はありません。
さまざまな働き方に関する問題点が指摘される日本では、「介護休業を取得することで会社での立場が悪くなるのでは?」と不安に思うかもしれません。
法律で、雇用主は介護休業を理由に労働者を解雇したり、不利益を生じさせてはいけないと定められていますが、実際には介護休業が原因で社内での立場が悪くなったという声も耳にします。
しかし、社内での立場が悪くなることと離職をして収入がゼロになることを比べれば、前者のほうがまだ良い状況だといえるでしょう。
現実的には、介護休業を取得できるかは会社次第といった部分もありますが、法律で取得する権利が守られている以上、強気で会社と交渉する価値はあるでしょう。
介護休業給付金制度で休業中の収入をカバー
介護体制構築のために介護休業制度でまとまった休日を取得した場合、金銭的な負担が大きくなります。
なぜなら介護休業期間中は、給与が支払われないからです。
しかし、「介護休業給付金制度」を利用することで、休業期間中の収入をある程度カバーできます。
普段から支払われている全額をカバーできるわけではありませんが、「休業開始時賃金日額×支給日額の67%」にあたる金額が受給可能です。
具体的な目安の金額は以下のとおりです。
・平均して月額15万円程度の場合、支給額は月額10万円程度
・平均して月額20万円程度の場合、支給額は月額13,4万円程度
・平均して月額30万円程度の場合、支給額は月額20,1万円程度
厚生労働省 Q&A~介護休業給付~ より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html
介護休業中の収入がゼロになると考えると、取得に足踏みをしてしまいますが、普段の収入の2/3程度の金額が支給されるなら取得に踏み切りやすいでしょう。
日常的な介護費用の負担軽減方法
介護体制を作るために、介護休業を取得できる介護休業を取得しても、「介護休業給付金制度である程度の収入はカバーできる。」
ここまでくると、仕事と介護の両立が現実味を帯びてきますが、最後の大きな壁は日常的にかかる介護費用の負担です。
自分が介護をしない体制というのは、言い換えれば積極的に介護サービスを利用するということですから、以前にもまして介護費用の負担は大きくなります。
しかし、介護費用の負担を軽減するための制度もいくつかあるのです。
・高額介護サービス費支給制度
高額介護サービス費支給制度では、所得に応じて公的介護保険サービス利用時の自己負担金の限度額(1カ月あたり)が定められています。
限度額を超えて介護費用の支払いがあった場合は、申請することで超過分の支払い費用が払い戻されるのです。
・介護保険の負担限度額認定証
基本的に介護保険サービスを利用した場合は、1~3割の自己負担の支払いで済みますが、
施設で生活をしたり、デイサービスやショートステイを利用する場合に発生する食費や居住費といったものは、全額自己負担となります。
日頃からサービスを利用する人にとっては、積み重なる食費や居住費が大きな負担になりますが、
一定以下の所得や貯金額であれば1日あたりの負担限度額が定められ、限度額を超えるサービスを利用しても一定の支払いで済みます。
・市町村独自の軽減制度
ここまで紹介した制度は、条件さえ合えば日本全国で利用できるものですが、中には市町村が独自に介護費用の負担軽減制度を利用していることもあります。
探してみれば、介護費用を軽減するための制度は意外と多く用意されています。
介護休業や費用の軽減制度を利用すれば、介護離職を避けるための介護体制づくりも不可能ではないでしょう。
介護施設への入居も要検討!
介護離職を避けるためには、なるべく自分で介護をしない体制を作ることですが、そういった意味で最も効果的なのは施設入居です。
施設を利用すれば、親は1日中そこで生活して介護サービスも受けられますから、子供が仕事を休んで介護をする必要も、ましてや介護のために離職する必要もありません。
介護施設への入居と聞くとネガティブなイメージを持つかもしれませんが、介護施設だからこそ適切な介護サービスを受けられて、親も快適な生活を送れるというケースもあります。
介護離職を避けたいなら、余裕がある段階から介護施設への入居も視野に入れておくべきでしょう。
まとめ
少子高齢化によって子供にのしかかる親の介護の負担は、どんどん大きくなっています。
それに伴い働き盛りの年齢が、介護離職を選択するケースも増えていますが、介護離職には収入ゼロ、介護終了後の再就職の難しさなど大きなデメリットが存在しています。
ある日突然親の介護が始まると、仕事と介護の忙しさに目が回り、ついつい離職を選びたくなる気持ちもわかります。
しかし、そこでぐっとこらえて介護休業制度を利用して、ケアマネジャーの助けを借りつつ、自分は手を出さない介護体制を作られれば、近い将来無理なく仕事と介護を両立できる可能性も出てきます。
「仕事と介護の両立がつらい…。」と感じても安易に介護離職はせずに、まずは制度をフル活用した介護体制を作ることを心がけましょう。