遠距離介護のコツとは?遠距離介護に疲れた場合の
親を介護するための環境は人それぞれ異なります。もともと親と同居しており、親のすぐそばで介護に携われる方もいれば、なにかしらの理由で遠距離介護をせざるを得ないという方もいるでしょう。
親のすぐ側で介護ができれば、とっさの出来事、急なスケジュール変更などに対応できますが、遠距離介護だとそうもいきません。遠距離介護は難しいと捉えられがちですが、コツをつかめば親にとっても子供にとってもメリットの多い介護方法になり得ます。
今回は、遠距離介護を上手に進めるコツ、遠距離介護に疲れてしまったときの対策を紹介しましょう。
遠距離介護の5つのコツ
親と同居していたり近所に住んでいるなら、子供が直接親を介護することも可能です。
しかし、遠距離介護では子供が直接介護をするのは不可能ですから、そこをどうカバーするかで介護が成功するかどうか変わってきます。
遠距離介護をする上で、心がけておきたいコツを紹介しましょう。ここでは、親が自宅で生活するケースを想定して話を進めていきます。
遠距離介護のコツその1
サービスと近所の繋がりをフル活用した介護環境づくり
遠距離介護でいちばん重要なのは、いかに親が一人でも安全に生活できる環境を整えられるかという点です。
子供が直接介護をしてあげられない部分は、しっかりと他の誰かにカバーしてもらいましょう。子供の代わりとなり親の介護を支えてもらえるサービスや手段としては、次のようなものがあげられます。
・介護保険サービス
誰もが思い浮かべるのが、介護保険サービスです。介護が必要な親が一人で生活している場合で特に利用頻度が高いのは、自宅に介護職員が訪れ身体介助や生活介助をしてくれる「訪問介護」、日帰りで介護施設へ足を運び、食事や入浴、レクリエーションといった介護を受けられるデイサービスでしょう。
こういった介護保険サービスを利用することで、親が一人っきりになってしまう時間を減らせますし、少々生活に不便があっても訪問してもらう介護職員にカバーしてもらうことで一人での暮らしを維持できます。
・自治体独自のサービス
今でこそ介護保険という制度によって高齢者の生活が支えられていますが、介護保険がスタートする2000年以前は各市町村の自治体が主となって高齢者向けの福祉事業を展開していました。
現在でも介護保険サービスとは別に自治体独自の介護サービスを展開しているのです。各自治体によって提供しているサービスは異なりますが、デイサービスやショートステイ、寝具の洗濯、配食、見守りサービスなど一人暮らしをサポートするサービスは豊富にあります。
親が住む自治体のホームページや、自治体の窓口に置いてある冊子などを見ると、具体的に利用できるサービスを把握できるでしょう。
・民間のサービス
高齢者が増え続ける現代では、民間企業もさまざまな介護サービスを展開しています。自治体のサービスでも紹介した配食サービス、見守りサービスや高齢者が一人では難しい家事を支援するサービスまで、その内容は幅広いです。
介護保険サービスは基本的に自己負担額が1~3割で済むのに対して、民間サービスの場合は全額自己負担です。そのかわり、介護保険サービスのように提供できるサービス内容に制限がありません。
かゆいところに手が届くサービスも豊富にあるため、介護保険サービスだけではカバーしきれない部分を民間サービスで補うようなイメージでプランを計画すると、親が一人でも生活しやすい環境に近づけられます。
・ご近所さん
遠距離介護をする場合は、たいてい実家や数十年住み続けた地域で親が生活し続けることになるでしょう。親が住んでいる周辺には、昔ながらの付き合いがあるご近所さんがいる可能性が高いです。
もしかしたら、あなたも小さい頃に可愛がってもらっていたり、学校の入学や卒業のたびに声をかけてもらっていたご近所さんに心当たりがあるかもしれません。
そういった昔ながらの付き合いがあるご近所さんは、民間の見守りサービスよりもよっぽど日々の親の状態を気にかけてくれるものです。
遠距離介護が始まる前には、一度ご近所さんに挨拶をしておくとよいでしょう。
ご近所さんと電話番号を交換しておき、「もしなにかおかしなことがあったら、ご連絡いただけますか?」「親に何度電話をしても出なかったら、こちらにお電話をして親の様子をみていただけますか?」とお願いしておくのがおすすめです。
帰省する度にご近所さんへお土産を持参して挨拶をすれば、昔から付き合いがあるご近所さんも嫌な顔はしないでしょう。
中には、「緊急時に様子を見てもらえたらありがたい。」という思いでご近所さんに挨拶をしたにもかかわらず、実は遠距離介護をしている間は、ほぼ毎日親の元を訪ね10分ほど世間話をして様子を伺ってくれていたご近所さんがいた、なんていうケースもありました。
このご近所さんは本当に昔から親と仲が良かったようで、親の様子を見る感覚ではなく、毎日世間話をしたかったから顔を出していたという感覚だったようですが、それでもこれほど心強い見守りサービスはないでしょう。
遠距離介護をする人の中には、頻繁に帰省するたびに親の身体介助を必死で行い、また自分の住む家に帰るという子供も少なくありません。結局子供が帰れば親はまた一人で生活しなければいけないわけです。
親の身体介助を積極的にする前に、帰省したタイミングを利用して上で紹介したようなサービスなどをフル活用して親が一人でも生活できる環境を整えてあげたほうが、親にとっても子供にとっても良いでしょう。
遠距離介護のコツその2
親、ケアマネジャー、ご近所さんとのコミュニケーション
遠距離介護では特に多方面の方の協力が必要ですから、コミュニケーションが大事になります。
まずは、介護をする上で欠かせない存在となるケアマネジャーとのコミュニケーションは重要です。
担当のケアマネジャーからの連絡を待つばかりという方も少なくありませんが、日頃からこまめに連絡を取り合っておくことで万が一のことが起きた場合でも、スムーズに連絡を取り合える環境を作れるでしょう。
ご近所さんがいるなら、帰省するタイミングで手土産を持参して挨拶をしておくと、普段から親の様子を見てもらいやすいです。
遠距離介護では、日頃から親とのコミュニケーションをとっておくことも大切です。日頃から電話などを使ってコミュニケーションをとっておくことで、電話越しにいる親の小さな変化にも気づきやすくなります。また、新しく介護サービスを利用する際には、嫌がる親を説得する必要も出てきます。普段からコミュニケーションをとっておくことで、こういった説得もスムーズに進みやすくなります。
遠距離介護のコツその3…
住宅改修で親の危険を未然に防ぐ
遠距離介護をする場合は、積極的に住宅改修を検討することをおすすめします。
遠距離介護で一番怖いのが、親が一人のときに転倒など万が一の事態が起こってしまうことです。
見守りサービスなどを利用することで早期発見も可能ですが、そもそもそういった危険が起きにくい環境を作り、未然に防ぐことも非常に重要でしょう。
家の中にある段差を減らしたり手すりを設置すれば転倒する可能性を下げられますし、ガスコンロから電気調理器に変更することで火事などの危険も防ぎやすくなります。
内容によって変わってきますが、住宅改修にかかる費用は介護保険である程度賄うことも可能ですから、ケアマネジャーへの相談がおすすめです。
遠距離介護のコツその4
介護プランは、親の資産で設計する
遠距離介護に限った話ではありませんが、大なり小なり親の介護に携わるなら資金面に大きな不安を抱える方は多いでしょう。
親の生活を支えるための介護ですから、介護費用は親の資金から捻出するべきですが、まだまだ「介護費用を援助しないと…。」と考える子供は多いです。
介護にはある程度のお金がかかりますが、利用するサービスを厳選したり、軽減制度などを利用することで費用を抑えることは可能です。
遠距離介護では費用もかさみがちですが、前提として「費用は親の資産から捻出する」という考えのもと介護プランを設計するべきでしょう。
「足りなくなったら、子供が援助すればいいかな…。」と甘く考えていると、最終的に親の生活とともに子供の生活まで立ち行かなくなる危険もあります。
遠距離介護のコツその5
帰省は「無理」せず「宣言」せず!
遠距離介護をする子供は、親に対して罪悪感をいだきやすく、そのせいもあってか無理をしてでも頻繁に帰省しようとします。しかし、無理な帰省は金銭面・肉体面・精神面、いずれの負担も大きく長続きしません。
前述したように、親が一人で生活できる環境を整えられているなら、頻繁に帰省する必要はなく、子供は自分の生活を圧迫しない程度に帰れば問題ありません。
また、遠距離介護では親を安心させたいがために「必ず月に1回は帰省するからね!」と
いったように定期的に帰省すると宣言しがちですが、これはやめましょう。人生ではいつ何が起こるかわかりませんから、これから数カ月先も定期的に帰省できる保証はありません。そして、帰省のタイミングを宣言すれば、子供の帰省を楽しみにしている親は「今月は、●日くらいに帰ってくるかな?」と期待してしまいます。
宣言どおりに帰ってこない子供に親は憤りや不安を感じ、子供は定期的な帰省を大きな負担に感じるようになってしまうのです。大きな見栄を張って「毎月帰るから!」と宣言せず、「次帰られるのは、多分3ヶ月後かな?」と次回の帰省の予定を話す程度にとどめておきましょう。
呼び寄せの介護のメリット・デメリット
実際に遠距離介護を始めてみると上手くいかないことも多く、「これなら、親を自分が住む家に呼び寄せたほうが良いのかな…。」と考えることもあるでしょう。しかし、簡単に「呼び寄せ」を決断するのはおすすめしません。
呼び寄せ介護のメリット・デメリット
一度「遠距離介護」から「呼び寄せ介護」に切り替えた場合のメリット・デメリットを整理しましょう。
呼び寄せ介護のメリットとしては、次のようなものがあげられます。
・親の側で介護ができるので、万が一のときにも対応しやすい
・子ども自身が介護をすることで、金銭的な負担を軽減できる可能性がある
・呼び寄せをした子供は、親と同居することで「親孝行ができた」と感じやすい
呼び寄せ介護のデメリットとしては、次のようなものがあげられます。
・直接親を介護することで、子供や家族の肉体的・精神的な負担が増加する
・住み慣れた地域を離れてしまった親は、ひきこもりやすい
・目の前に困っている親がいるからこそ「助けたい」という思いが強くなり、子供が自分を犠牲にしやすい
・場合によっては、呼び寄せることで子供が仕事をやめざるを得なくなり、金銭的な負担が増加する可能性がある
遠距離介護は続けたほうがいい?
どんな介護の形にもメリット・デメリットがあるため、「この形が一番優れている!」とは言い切れません。人によっては、遠距離介護よりも呼び寄せ介護のほうが良かったと感じるかもしれません。
しかし、前述したように遠距離介護から呼び寄せ介護に切り替えた場合、デメリットも少なくありません。子供や家族の負担の増加、金銭的な負担の増加もそうですが、特に気になるのは、親のひきこもりです。
高齢者になると変化に対応するのが難しくなり、新しい人間関係を気づきにくくなります。呼び寄せ介護だと親は住み慣れた土地を離れざるを得なくなり、新しい土地には知り合いは家族だけという状況になるでしょう。
地元では、暇があれば外に出歩いてご近所さんと話をしたりしていたような活発な人でも、呼び寄せ介護が原因で引きこもりになることは少なくありません。他人との関わりが減れば、認知機能が低下したり、生活不活(全身のあらゆる機能が低下するなど)になりやすいです。
遠距離介護を続けるのか、呼び寄せ介護に切り替えるのか、判断するのは子供と親ですが、可能であればできるだけ親が住み慣れた土地で生活できる環境を模索したほうが良いのかもしれません。
3.遠距離介護に疲れた場合どうすべきか?
遠距離介護を続ける方向であの手この手を尽くしても、必ずなんらかの形で疲れが蓄積していきます。介護をする上では、距離が近かろうが遠かろうが疲れは溜まっていきますが、遠距離介護ならではの疲れがたまったときの対策を紹介しておきましょう。
遠距介護で考えられる3つの疲れ
遠距離介護を続ける中で感じる疲れとしては、次のようなものがあげられます。
頻繁な帰省で感じる肉体的な疲れ
遠距離介護をすれば、自然と帰省をする機会も増えていきます。距離のある双方の家を何度も往復するのは、体力的に疲れが溜まるものです。遠距離介護の場合は、毎日そばにいて親を介護する子供のように直接的な介護の身体的負担は少ないですが、移動に伴う肉体的な疲れで疲弊してしまうかもしれません。
交通費による金銭面の疲れ(負担)
帰省をするためには交通費が欠かせず、遠距離介護だと高額な交通費にも頭を悩ませやすいです。交通費を抑えるために移動手段のグレードを落とすという考え方もありますが、夜行バスなどを利用すると今度は肉体的な疲れがぐっと高まります。
また、親の生活環境を整えるために介護サービスをたくさん導入し、介護費用の負担が増加する可能性もあります。実は、介護費用を軽減する制度もいくつかあるのですが、それを知らずにただただ増加する介護費用に頭を悩ませる子供は少なくありません
離れて暮らす親を心配する疲れ
遠距離介護では、日々の中で「親は今なにしているかな?まさか家の中で倒れたりしていないよね?」と心配になってしまうことが多いです。同居して介護をしているのとは違い、気になったときに親の姿を気軽に確認できるわけではないので、不安になるのも当然でしょう。
だからといって、不安が続く状態をそのままにしておけば、子供も毎日の自分の仕事や生活に集中できなくなり疲れを感じてしまうでしょう。
4.遠距離介護の疲れに対する2つの対策
介護を長く続けるためには、なるべく疲れを溜めないようにすることが大切です。遠距離介護で感じる疲れを解消するための2つの対策を紹介しましょう。
対策1…環境を見直す
遠距離介護で多くの疲れを感じる場合は、親を遠距離で介護するための適切な環境を整えられていないのかもしれません。
例えば、親が一人で生活できる環境を整えられているなら、緊急時を除けば子供が頻繁に帰省する必要はなくなります。帰省する頻度を減らせれば、家計に大きくのしかかる交通費の負担も減らせるでしょう。やはり環境が整っていれば、離れて暮らす親を心配する気持ちも抑えられるでしょう。
遠距離介護をする場合は、肉体的・精神的・金銭的な疲れや負担をゼロにすることは不可能ですが、あきらかに負担や疲れによって子供の生活も崩れそうになっているなら、前半部分で紹介したポイントを参考にして、一度遠距離介護の体制を見直してみましょう。
対策2…施設への入居
どんな高齢者も年齢を重ねるごとに、体のさまざまな機能が衰えていきますから、いずれは親が自宅に住み続けることは難しくなるかもしれません。どんなに環境を整えても遠距離介護には限界がありますから、もしも限界だと感じたら施設入居へと舵を切り替えたほうが良いでしょう。
施設なら1日の生活を送る上で親が必要とするサポートをまとめて受けられますし、なにより介護職員が見てくれているという安心感があります。場合によっては、遠距離介護をしているときよりも金銭的負担が大きくなるかもしれませんが、検討する価値は十分にあります。
自宅で過ごす場合と比べると住み慣れない施設で生活するのは、親にとって居心地の良いものではないかもしれません。しかし、無理をしてでも自宅に住み続けると、万が一のことが起こる可能性が高くなってしまうこと、遠距離で介護をする子供の負担も増えてしまうことを考えると、決して施設入居はネガティブな選択肢ではないでしょう。
5.まとめ
一人では生活が難しく介護が必要な親と離れて生活しなければいけない遠距離介護は、決して簡単なものではありません。しかし、コツをしっかり抑えておけば、親にとっても子供にとっても負担の少ない介護生活を実現できる可能性も秘めています。
遠距離介護をしていると、なにかと「疲れた…。」とため息をつきたくなるかもしれません。しかし、親の介護環境を見直し、子供抜きでも介護が成り立つ状態を生み出すことで、多くの疲れは軽減できます。
もちろん、遠距離介護にも限界がありますが、安易に呼び寄せ介護を決断せず、環境の見直し、もしくは施設への入居を検討して親にとって最良の介護環境を用意できるように行動してみましょう。