親の介護はしたくない!親の介護は子供の義務なの?

親の介護というのは、親を大切に思う気持ちとは関係なく、負担に感じてしまうものです。
大人になるまでの間に親と良好な関係を築けてこれた人であれば、その悩みはごくごく小さなものかしれません。
しかし、世の中にはいい親子関係の人ばかりではないし、子どものことなど家庭の事情で「親の介護なんて絶対にしたくない!」と考える人は、少なくありません。
今回は、子供にとって親の介護は義務なのか?親の介護をせざるを得ない場合どうしたらいいのか?について紹介していきます。
1.親の介護はしたくない!介護は子供の義務?
親に育ててもらった恩があるのだから、「親の介護は子どもがして当然」と思っている日本人は、いまだにとても多いです。
特に、今の高齢者世代の男性の半数以上が、家族に介護をしてもらいたいと思っているという調査結果があります。
しかし、本当に介護は子供の義務なのでしょうか?
両親ともにフルタイムで働かなければ家庭が維持できなかったり、親と同居する子どもが減っている現代の状況を考えると、
親の介護を「義務」として子供に押し付けるのは、酷なことだといえるでしょう。
親の介護は子供がするもの=昔の考え
親の介護は子供がするものというのは、もはや昔の考えだと言い切ってもよいのではないでしょうか?
昔は早いうちに男女が結婚し、跡継ぎを作るためにもたくさんの子供を産み育てるのが当たり前でした。
ほとんどの家庭には2人、3人と子供がいるわけですから、その中でも長男が家に残り、親と同居し結婚をして新しい家族を持ち、長男とその嫁が、体の衰えている親の介護をしていったわけです。
家を離れた長男以外の兄弟や姉妹は、他の家に婿養子に入ったり嫁に行き、そこで義父母を介護する。
このように子供の数が多かったからこそ、介護をする子供と介護をされる親の人数の釣り合いが取れていたと言えます。
また、現代とは違い専業主婦も多かったため、家庭環境的にも自宅で介護をしやすい環境だったともいえるかもしれません。
現代で子供が親を介護するのは難しい?
では、現代の家族状況を考えてみましょう。
みなさんご存知の通り、日本は超高齢化社会に突入し、介護を必要とする高齢者(親)がどんどん増えています。
女性が一生のうちに産む子供の人数も、2人以下と超少子化です。
例えば、子供が一人しかいなかった家庭で考えてみましょう。
子供が成長して結婚し、今どき珍しく、息子夫婦が親と同居してくれたとします。
同居状況で親の介護が必要になると、息子夫婦はできることはしてくれるでしょう。
しかし、息子に親がいるのと同じように、息子の嫁にも親がいます。
その女性も一人っ子なら、息子夫婦は、いずれは嫁の親の介護もしなければいけなくなるかもしれません。
老いればほとんどの人が介護を必要としますから、単純計算で息子夫婦は4人の親を介護しなければいけないわけです。
晩婚化、高齢出産が増えたことによって育児と介護がバッティングするケースも珍しくありません。
そんな状況で、昔と同じように子供が親を介護するのが当たり前だといえるでしょうか?
親世代は「私達だって親の介護をしたんだから、子供達だってできるはず!」と都合よく考えるかもしれませんが、それは今の現実を直視していないからです。
現実的に考えて、親の介護は子供の義務だと言うのはあまりにも酷な話でしょう。
親の介護はしたくない…法的にはどうなの?
親の介護は、誰かがやらなければ、生活することができないこともあります。
それでも親の介護を放棄した場合、法的にはどうなのでしょうか?
法律面での親の扶養義務
法律面で「子供は親を介護しなければいけない」という義務があるなら、子供はそれに従うしかありません。
子供と親の介護に関する条文としては、次のようなものがあります。
「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある(民法第877条)」
親子関係だけに注目してこの条文を言い換えると、親子関係にある場合、親(もしくは子)が独力で生活できない状況に陥った場合は、子(もしくは親)が相手を扶養する義務があるということです。
例えば、親は子供が生まれれば、当たり前のように子供を扶養します。法律的に見れば、これは子供が独力で生活できないので、法律に基づいて親が扶養しているということです。
その逆も然りで、成長するにつれ親が独力で生活できない状態、つまり介護が必要な状態になった場合は、法律に基づいて子供が親を扶養しなければいけないわけです。
扶養義務はあれど、最優先は自分の生活!
親子関係にある場合、子供には親を扶養する義務があります。
しかし、ここでいう扶養義務というのは、「自分(子供)の生活を投げ売ってでも、相手(親)の生活をすべて支えなさい。」という意味ではありません。
もしも扶養の対象となるのが、未成年の自分の子供や配偶者であれば、本人と同じレベルの生活を送れるように扶養しなければいけません。
つまり、あなたが結婚している男性なら、扶養の対象となる自分の子供や妻は、自分と同じ程度の生活ができるように扶養しなければいけないわけですね。
しかし、扶養の対象が未成年の子供や配偶者以外の場合、自分の生活を確立することが最優先であり、その上で経済的に無理のない範囲で扶養義務を果たすというのが一般的な解釈です。
子供にとって親は扶養の対象ですが、「未成年の子供や配偶者以外」に当てはまります。
もしも、あなた自身が自分の生活を送るので精一杯だという状況であれば、経済的な余裕はないので、強制的に親を世話しなければいけないという状況にはならないわけです。
親の介護を完全放棄するのは危険
実は民法とは別に、刑法にも親子の介護に関係する重要な条文があります。
・老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する(刑法代218条)
親子の介護に言い換えると、親が独力で生きられないことを知っていながら子供がその保護を怠った場合、懲役3年以上5年以下の刑事罰が適用される可能性があるということです。
民法上では、経済的余裕がなければ親を扶養しなくても済むと解釈できますが、一方で刑法上ではなんの対応もせずに放棄をすると刑事罰に問われてしまうかもしれないのです。
ふたつの法律的側面から考えると、親の介護が必要な状態になっていることを知っている以上、子供が親の介護に関してまったく対応しないというのは危険でしょう。
しかし、扶養義務というのはあくまで子供に余裕があれば、経済的に親を援助する義務があるという話で、身体的な介護をする義務まではありません。なるべく親と直接かかわらず介護をして、法律的にも罰せられない方法があるので、安心してください。
2.介護をせざるを得ないときの選択肢「サービス主体の介護」
さまざまな理由で親を介護したくないと考えていても、法律的には親の介護にノータッチというのは難しいかもしれません。
しかし、親と直接接触する機会を極限まで減らしつつ、法律的な扶養義務や、道徳的な意味での介護の義務を果たしているといえる方法が存在するのです。
それが、サービス主体の介護です。
あなたが想像する介護は?
ひとことで「介護」と言っていますが、そもそも介護の境界線は人によって違うかもしれません。
例えば、直接食事を食べさせたり、排泄の介助をしたり、こういった行動は誰もが思い浮かべる介護ですよね。
それでは、お金を使って介護サービスを導入し、介護職員等に親の介護を代わりにやってもらう場合はどうでしょうか?
この場合、子供が親の体に直接触れたりすることはないので「介護をしている感」はなくなりますが、
実際にはサービスを導入して親が一人でも生活できる環境を整えているため、これもひとつの介護の形なのです。
このように、直接体に触れて援助することだけでなく、生活環境を整えることも介護の一環だと考えれば、介護をしたくないという人でも無理なくできる介護の形が見えてきます。
サービス主体の介護という選択肢!
世の中には、訪問介護、デイサービス、介護施設といったさまざまな介護保険サービスや、家事代行や見守りサービスといった 介護保険外のサービスもあります。
お金を使ってこういったサービスを利用して、サービス主体の介護環境を作り上げてしまえさえすれば、
子供は親と毎日のように関わることもなく、親をしっかりと「保護」している状態になります。
確かに介護が始まってすぐの頃は、さまざまな手続きのために、親と頻繁にかかわらなければいけなくなるでしょう。
しかし、親の介護が必要な状態だと知りながら、なんの対応もしないというのは難しいです。
介護が受けられるように手続きをしたり、顔を合わせるのが苦痛に感じる人がいたとしても、そこさえこなしてしまえば、
介護環境を整えることができているので、後は直接関わらずに済むようにすることもできます。
サービス主体の介護の具体例を2つ紹介しましょう。
介護保険サービスと民間サービスの組み合わせ
介護が必要になった人は、「要介護認定」を受けることで要支援1~2、要介護1~5の認定を受けます。
要支援1が最も状態が軽く、要介護5が最も状態が重いと考えるとわかりやすいですね。
例えば、介護が必要だと言っても状態が軽いのであれば、ある程度の生活は自分でできるため、在宅で生活が可能です。
在宅で生活が可能そうなら、ホームヘルパーに自宅に来てもらい必要な介護をしてもらう訪問介護、さらに日中の間だけ施設へ通うデイサービスといった介護保険サービスと、
万が一のことが合った場合に知らせてもらえる民間の見守りサービスや配食サービスといったものを組わせます。
これで、あなたが直接親を介護せずとも保護はできている環境が整います。
施設入居
親の介護をしたくないと考える人にとって、最良の選択は親を施設へ入居させることかもしれません。
介護が必要になる親は、時間が経つにつれて必要とする介護サービスも変わってきます。
上で紹介したように、介護保険サービスと民間サービスを組み合わせて在宅で生活してもらう場合、定期的にサービスを見直す手間も出てきます。
言い方はひどいですが、介護施設や老人ホームに入居してもらえば、亡くなるまでそこで面倒を見てもらうことも可能です。
この場合でも、子供はしっかりと親を入居させて、生活を保護している状態ですから、施設に介護を投げっぱなしになっても、しっかりとお金を払っていれば罪に問われることはありません。
3.介護費用はどこから捻出する?
ちゃんと親の生活を保護しつつ、自分は介護になるべくかかわらないようにするなら、一番良いのは施設への入居です。
しかし、問題となるのは介護費用をどこから捻出するのか?という点です。
費用の捻出方法1…すべて親の資金で賄う
親に貯金や年金、不動産などの資産がある場合は、介護費用はここから捻出して問題はないでしょう。
親によっては「子供であるお前が金を出せ!」なんてことも言いかねませんが、そもそも介護というのは親の生活を支えるためのものです。
自分が生活を送るために、自分のお金を使うのは当たり前のことです。
親に経済的余裕があるなら、親が自分の介護費用を支払うのは当然のことでしょう。
捻出方法2…生活保護で賄う
親に介護を受けるだけの資金がないというのであれば、親に生活保護を受給してもらい、その費用で施設で必要な介護費用を支払うようにすると良いでしょう。
子供であるあなたは親を扶養する必要がある「扶養義務者」ではありますが、前述したようにあなた自身が自分の生活を犠牲にしてまで親の経済面の面倒を見る必要はありません。
また、扶養義務者(子供)が存在する場合でも、要扶養者(親)が生活保護を受けられないわけではありません。
生活保護を受給した場合は、「所得に応じた負担軽減措置がある老人ホーム」への入居を検討するのがおすすめです。
親が生活保護を受給し、老人ホームへ入居できた場合は、子供に金銭的・肉体的、精神的な負担が大きくのしかかる心配もなくなるでしょう。
4.介護をしたくないからこそ相談を!
親の介護をしたくないという人は、ついつい何もせずに親と距離を置きがちになりますが、これは危険です。
もし親の介護に関わりたくないと思っていても、かなりの確率で、介護保険課などから連絡がくるからです。
介護放棄をしたい明確な理由として、今までの家庭環境、親との関係性などを話したり、
金銭的な事情で、親の面倒まで見ると生活が経ちいかないなどの、介護ができない理由など、状況をきちんと伝えることが必要です。
介護をしたくても、できない状況となれば、自治体としても別の方法を模索するなど、介護の負担を減らすことにつながるでしょう。
5.まとめ
親の介護問題は多くの子供にのしかかる問題ですが、金銭面や家庭環境などさまざまな理由から、介護をしたくないと考える人も多いでしょう。
子供には親を経済的に支援する義務(あくまで子供の生活が優先)こそありますが、身体的な介護をする義務はありません。
しかし、親の介護が必要だという状況を知っているなら、何かしらの方法で「保護」をしないと最悪の場合は刑事罰に問われる可能性もあります。
もし、金銭的に介護に関わるのが難しいというのであれば、親に生活保護の受給をしながら施設入居をしてもらうという方法もあるし、
親の様子を見に行ってもらう、みまもりサービスを利用すれば、生活状況を知ることもできます。
心の底から親の介護をしたくないと考えるなら、ただ介護放棄をするのではなく、やるべきことだけはやるというスタンスでいれば、堂々と親の介護から離れることができるでしょう。