老後の田舎暮らしはアリ?ナシ?実際はどうなの?

会社を定年退職してからの余生は30年40年という時代になりました。
まさに第二の人生と呼ぶにふさわしく、それだけにどのようなライフスタイルにしたらいいのか悩んでいる人も少なくないでしょう。
田舎暮らしはその中でももっとも気になるフレーズとなっているのです。
ここでは、高齢者の田舎暮らしにスポットをあてて考えてみます。
●老後の田舎暮らしはどうなの?
人生100年といわれ、現在の60歳代の人が100歳まで生きる確率は男女とも10%には達していませんが、90歳まで生きる確率は男性で20%を超え、女性は50%に届く勢いとなっています。
会社を退職しても優に30年以上の余生があると考えると、老後をどうやって生きるかということも真剣に考えておくことが大切です。
ライフスタイルも多様化していますが、一つの選択肢として誰もが「田舎暮らし」というものを考えたことがあるでしょう。
都会で暮らしていた人にとって田舎の牧歌的な雰囲気はどこか懐かしく感じられますし、あこがれにも近い気持ちになるのではないでしょうか。
・老後の田舎暮らしを考える
これまでの都市生活から、発想を180度変えて自然あふれる田舎暮らしを考える。
老後の生活設計の柱に田舎暮らしを据える人も少なくありません。
田舎暮らしにもさまざまなスタイルがあります。
極端な例では、田舎の中でも農村部に完全移住して、田畑を耕して「食糧自給の生活を送る」そういうことも含めていくつかの田舎暮らしの例を考えてみます。
①農業をして自給自足の生活
ハードルが高そうに見える自給自足の生活ですが、100%と考えることはなく、簡単な作物から始めると良いでしょう。
お米を作りたいなら自分だけで、というのではなく、人の田んぼを手伝うというスタンスがおすすめです。
まずは、どの程度のことから始めるのか、最終的な目標はどこに置くのかなどを考えたほうがいいでしょう。
理想と現実のギャップに直面する選択が農業生活になるはずなので、最初は習うことから始めることが大切です。
②実家に帰る
もっとも簡単な選択が実家に帰ることです。当然ですが、住まいは確保されています。
住み慣れた我が家ですし、数十年離れていたとしても、勝手知ったる土地柄ですから、慣れるのも早いでしょう。
昔懐かしい面々に会えるのもうれしいことですし、老後の生活の中でももっともリスクが少ないのがこの方法です。
③リゾート地での別荘住まい
自宅を売却するなどして潤沢な資金があれば、リゾート地での別荘住まいというのも視野に入るでしょう。
軽井沢などの高級別荘地ではかなりの費用がかかりますが、リゾート地という名前にこだわらずに、田舎で景色の良いところ、住みやすいところに家を購入するのも一つの方法です。
④田舎の老人ホームへ
海の見える老人ホーム、木々の紅葉がきれいな老人ホームなど、田舎の老人ホームの多くは風光明媚なところに立地しています。
日々の散歩の楽しさも倍増することでしょう。
都会の喧噪の中にある老人ホームよりも、落ち着いて生活できることを考えると、田舎の老人ホームのメリットも見えてきます。
⑤都会と田舎の両方に拠点を持つデュアルライフ
「都会の暮らしの便利さも捨てがたい」そういった人には都会と田舎の両方に拠点を持つデュアルライフがおすすめです。
資金がかかりそうですが、田舎の一軒家を購入するのではなく借りるのであれば、それほど出費はかかりません。
こちらのほうが別荘住まいに近い運用方法といえるでしょう。
⑥地方都市へ移住
さすがに、何もない田舎暮らしの不便さには耐えられないかもしれない人におすすめなのが、地方都市への移住です。
都会と便利さはそれほど変わらず、少し歩けば田園風景が広がる地方都市の素朴さを感じることができます。
●費用はどのくらい見ておくべき?
老後の費用はどのくらい見ておくといいのでしょうか。
・定年後の田舎暮らし…いくら必要か
①農業で自給自足
都会に住んでいるときは、田舎で農業をすることを夢見ていたという人も多く、実際にその夢を実現する人も少なくありません。
地方も地域活性化の施策で、都会からの移住者を積極的に受け入れているところもあります。
古い家屋をリフォーム付きで安価で賃貸し、田畑も格安で利用可能といったように家賃と考えても格安で住むことができるので、夫婦二人でしたら、年金受給のみでも十分に生活することが可能でしょう。
基本的に年金受給のみで生活しようと考えると、都会暮らしが長くなると月々30万円では心細いと考える人もいるかもしれませんが、それだけあれば、田舎暮らしは全く問題なく生活できると考えていいでしょう。
農業をせずとも一戸建ての賃貸でも家賃は10万円はしないはずです。
特に、地方自治体の支援制度などを活用すれば、もっと安い賃貸物件を探してくれることでしょう。
物価も都会ほど安くありませんし、農業生活も板につけば、野菜だけでも自給自足は十分に可能です。
そうなると食費もかなり浮きますから、年金収入が夫婦で30万円もあれば、貯金を食いつぶすことはなく、むしろ貯金ができるくらいの生活ができるでしょう。
②実家に住む
ある程度条件が揃っている必要がありますが、実家に住むのであれば、家賃などの心配をまったくする必要がありません。
また、実家に住むのではなくても、小さい頃に慣れ親しんだ故郷で暮らすのであれば、賃貸物件を探して住んでみても安心して暮らすことができるでしょう。
周囲に身内や知り合いがいるという安心感は、他に勝るものはないといってもいいでしょう。
③リゾート地での別荘住まい
ある程度の資産が必要になりますが、自宅を売却するなどして資金作りを行うと地方では、一千万円程度でも中古物件を購入することができるでしょう。
高級リゾート地ではそれなりのお金がかかると思いますが、風光明媚な田舎であれば、それが自分自身にとってのリゾート地となるのです。
④有料老人ホーム
定年後の田舎暮らしには貯金は数千万円はないと難しい…そういった声がよく聞こえます。
しかし、それは毎月たくさんの生活費が必要な人も、少ない人もすべて含めた平均の数字なので、実態とはかけ離れているという指摘もあるのです。
田舎暮らしといえども、お金はたくさんあるに越したことはないのですが、そこまで必要ではなかったりします。
例えば、夫婦二人が年金受給の始まる年齢に達したら、年金収入も30万円に近いでしょう。
それくらいあれば、たいていの有料老人ホームに入所できますし、入居費用も1千万円あれば大丈夫です。
これが、田舎(地方)の有料老人ホームとなればさらに安くなるでしょう。
そうなると、田舎の有料老人ホーム暮らしというのは、全くの絵空事ではありません。むしろ、都会生活よりも金銭的な負担は軽いと考えていいでしょう。
⑤都会と田舎のデュアルライフ
これはある程度の資産が必要です。
都会の暮らしをメインに据えながら地方にもいわば別荘を持つと考えるとわかりやすいです。
都会暮らしが捨てがたいのは、生活用品が全て揃うことです。
田舎の場合は、交通機関が発達していないので、車がないと生活がしにくいといった面は否定できません。
ですから、都会と田舎のデュアルライフを考えながら、ある程度慣れたところで、どちらかをメインにするという選択肢もあります。
⑥地方都市への移住
農業生活という思い切った手段をせずとも、地方都市でのんびりと暮らすという考え方もあります。
自宅を売却するなどしたら、都会だと数千万円くらいの資産はすぐにできるでしょう。
預貯金と合わせて2千万円もあれば、賃貸でもいいですし、中古物件の購入も視野に入ってきます。
賃貸での生活設計を考えると以下のプランとなります。
・家賃 2LDK一戸建て 5万円
・光熱費(電気・ガス・水道代) 2万円
・食費 6万円
・交際費 2万円
・娯楽費 2万円
・そのほか 3万円
・社会保険料 3万円~
老後でも社会保険料(介護保険など)は必要です。
収入によって保険料は違ってくるのですが、年収の15%は社会保険料として納付が必要です。
夫婦二人の年金収入が300万円だったとしたら、45万円の社会保険料が必要ということになります。
そうなると、月々4万円弱の負担ということになります。上の例を見てみると、それでも月々30万円の年金収入があれば、生活することが可能といえます。
家賃がどれくらいになるのかが重要ですが、賃貸で5万円程度は地方の中核都市でなければ十分に可能な数字です。
・資産運用を考える
年金だけの収入では不安…かといって田舎では働き口も少ない。
都会ほどお金はかからないといっても…田舎暮らしには不安がつきまとうものです。お金についてはなおさらです。
そのときに老後の資金運用もしっかり考えておくといいかもしれません。
①投資信託
一人一人では少額でも多くの人からお金を集めて集中運用し、得た利益を投資家一人ひとりに還元する投資方法です。投資は運用の専門家が行うのでリスクが少なく安心して始めることができるのがメリットです。
②外貨定期預金
為替と聞くとリスクの大きさを感じますが、特約付き外貨定期預金を多くの銀行が用意しています。外貨の利回りの良さを利用した投資方法で、為替変動リスクを回避しながら円ベースでの利回りができる安定性が魅力の投資方法です。
③NISA(少額投資非課税制度)
株式投資を行っている人も、NISAでは株式投資の売却益を非課税で受け取るメリットがあります。
年間の投資金額100万円などの上限がありますが、非課税期間が5年もあるので、安定重視の投資方法ができます。
※どれもある程度の資金が必要になりますが、数百万円あるいは数千万円の資金を銀行口座に預けているのでは、低金利の時代はマイナス面ばかり目につきます。中でも投資信託はリスクが少なく安定したバックがあるので高齢者の資金運用にもっともおすすめの投資方法です。
●田舎暮らしのメリットとデメリットは?
田舎で暮らすメリットとデメリットを考えてみます。
都会暮らしが長くなると、田舎暮らしの憧れが強く、何でも受け入れることができると思いがちですが、実際に住んでみるといろいろなところで不便を感じてしまうのです。
・田舎暮らしのメリット
①自然が多い
都会に住んでいると、土の上を歩くという地方ではあたりまえのことができません。
空の青さや澄んだ空気も田舎ならではといえるでしょう。
都会にも木々が植えられ、思いの他、緑も目につくのですが、圧倒的な自然というわけではありません。
自然を満喫する、ということにおいては都会は田舎には及ばないと考えていいでしょう。
特に自然を求めて、都会暮らしを離れて田舎を目指すという高齢者は少なくないのです。
②新鮮な食べ物
田舎では驚くほど安く野菜が手に入ります。
周囲が農家ばかりのような農村地帯では、今でも物々交換に近い形で新鮮な野菜が手に入ることでしょう。
これが海沿いであれば、新鮮な魚介類がそれこそ安価で手に入るのです。
都会では考えられないことが現実に起こるのが田舎での食糧事情と考えていいでしょう。
③近所つきあいが心地良い
都会では、「隣に誰が住んでいるのかもわからない」ということが少なくありません。
それが田舎では「向こう三軒両隣」というわけではありませんが、密接な近所つきあいをすることができます。
あまりにも近すぎると窮屈な印象となりますが、現在はほどよい距離感で関係を保てるのも田舎での近所つきあいの利点と考えていいでしょう。
④星がよく見える
田舎に来て誰もが思うことが、星空がよく見えることだそうです。
これは誰でも体験することでしょう。地方でもかなりの田舎に行かなければ、星がよく見えないのですが、その星空を求めて田舎暮らしをするという人も少なくないのです。
⑤時間がゆっくりと回る
都会と比べて田舎は時間がゆっくりと流れると感じる人が多く、それが田舎の魅力となっているようです。
特に高齢者が田舎に住むとそれを強く感じるようですし、田舎のメリットと考えていいでしょう。
⑥ストレスを感じない
田舎暮らしをすると、体調が良くなったという人も少なくありません。
何が変わったというわけではないのに、体調が良いというのは、ストレスを感じなくなったからという意見が多いのです。
日の光を浴びて、土いじりをし、森林浴をすることでストレスから解放されることは間違いなく、それが体調の良さとなって現れるのです。
⑦お金がかからない
年金生活者にとって嬉しいのは、お金がかからないということでしょう。
物価が安いのはもちろんですが、ある程度の資産があれば中古物件なら十分に一戸建て住宅の購入も可能です。
賃貸でも家賃が安いので住むところには困らないですし、先々は有料老人ホームに入所するにしても、入居費用や月額費用も都会の老人ホームに比べて割安な点も大きなメリットと言えます。
⑧治安が良い
日本に住んでいるとどこにいっても治安が悪いと感じることは少ないのですが、田舎では何も悪いことが起きるような気がしないというのが実感です。
夜が暗いということはありますが、夜開いている所も少ないので、家で静かに過ごすことができます。そういった面では余暇を十分に楽しむといったことが大切になってくるでしょう。
⑨自給自足の生活が楽しめる
農業生活を目的として田舎に住むのでしたら、自給自足の生活を目指すのもいいでしょう。
田舎ではかなり安く畑を借りることができますし、土地が広いのでプランターなどで多くの種類の野菜を育てることができ、野菜に関しては十分に自給することができるでしょう。
慣れるまでが大変かもしれませんが、十分な時間があるので、野菜作りに没頭できる楽しさがあるのは間違いありません。
●田舎暮らしのデメリットと失敗例
誰もが憧れる田舎暮らしですが、思うようにいかないことも少なくないようです。
こんなはずではなかった…わかっていても実際に住んでみるとそう思ってしまうのです。
①お店が少ない
スーパーなどのお店が少ない、遠くに行かなければいけないということも少なくないのです。
訪問販売サービスを行っているところもあるので、そういったサービスを利用することで、不便さを感じることは少ないかもしれません。
都会ではあちことにコンビニがあり、24時間いつでも調達できるのですが、田舎ではそういったことはありません。
必要なときに必要なものを…というのではなくある程度まとめ買いをしておくことが大切です。
しかし、物産展や地元の人が行っている野菜の販売など、新鮮な野菜を安く手に入れられるお店があるのは、田舎ならではのメリットと言えるでしょう。
②危険な動物と遭遇することも
都会では考えられないことですが、田舎では民家の近くにもクマやイノシシが現れることがあります。
草むらなどはマムシなどがいますし、軒下にはムカデがいることもあるでしょう。
むしろ人間を恐れているので、目の前に現れるということは少ないかもしれませんが、用心に越したことはありません。
地元の人の助言などはとても頼りになるのでしっかりと聞いておくといいでしょう。
また、蚊やハエなども多くそういった虫などからも身を守る対策も考えておいたほうがいいです。
③車がないと不便
田舎で暮らすとわかるのですが、どこに行くにしても車が必要です。
風光明美な場所ほど、車がないとどこにも行けないと考えたほうがいいでしょう。
「自転車があればなんとかなる」というのも都会的な考えで、家と店との距離が遠すぎて、自転車でもかなり走らなければお店にたどりつくこともできません。そういったところが田舎暮らしのデメリットと考えていいでしょう。
車がなくてもなんとかなるのですが、何かのときのためにも車が必要です。
費用はかさみますが、運転に支障のないうちは車はあったほうがいいでしょう。
④近所つきあいがわずらわしいことも
都会と比べて田舎は近所つきあいが頻繁です。
人との距離感も近く、都会で特に人間関係を気にせずに生活していた場合は、田舎で馴染めないのが近所つきあい…という人も少なくないのです。
近所つきあいを上手にこなさないと田舎暮らしがとても辛いものになってしまうこともあるので、できるだけ社交的に振る舞うことが大切です。
もしものときに頼りになるのは、近所付き合いですから、そういった面でも近所付き合いを大切にしたいものです。
●まとめ
老後の田舎暮らしは、都会生活の長い人にとっては憧れのライフスタイルです。
しかし、実際に住んでみると不便なこともあります。
不便さも含めて田舎暮らしを楽しむか、不便さを感じない工夫が大切です。
体が元気で動くうちは、都会でも田舎でも暮らしていけるでしょうが、問題は体が動かなくなったときのことでしょう。
田舎暮らしの場合は、ご近所さんとの助け合いで暮らしている人がいたり、声を掛け合うだけでも心が落ち着くこともあります。
便利さや今のメリットで単純に田舎暮らしを考えるのではなく、その先の生活を考えたほうがいいのはいうまでもありません。
今の状況と、5年後、10年後もっと年を取ったら、どうするかまでの生活設計がおすすめです。